日本大百科全書(ニッポニカ) 「武士詞」の意味・わかりやすい解説
武士詞
ぶしことば
武士階級に特有の語彙(ごい)や表現法をいい、武者詞(むしゃことば)ともいう。院政・鎌倉期から文学作品に登場するようになったが、それ以前にも存在したか否かは明らかでない。戦場での表現が特徴的で、「退く」といわずに「急ぎいづ方へも御開き候ふべし」(保元物語)というように「開く」を使ったり、受け身にすべきところを「家の子郎等多く討たせ我が身手負ひ」(平家物語)というように使役表現を用いたりする。幕についても、味方の場合は「幕をうつ」といい、敵には「幕をひく」という。これらは、敗北を嫌う武士の負けじ魂の表れで、味方については力強く表現しようとするものである。江戸期に入ると、武士階級のことばと町人階級のことばとの間に差が生じ、「拙者」「それがし」「貴殿」など、武士特有の代名詞や「さようしからば」「――でござる」といった言い回しが用いられるようになった。
[鈴木英夫]
『菊池季生著『国語位相論』(『国語科学講座 第三巻』所収・1933・明治書院)』