日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
ところで、コトバの語は、広く言語の意を表す一方で、ときにいくつかの限定された用法をも派生させた。和歌などの韻文に対して散文をさしたり、能楽・狂言などの謡物(うたいもの)や近世の邦楽などで、曲調部に対してそれのない部分をいったり、物語などの会話文に対して説明の文(地の文)をさしたりするのがそれで、総じてこれらの場合、コトバとは、一団の言語表現のなかで、技巧を伴わない部分、平板的な表現の部分をさしたようである。絵巻で、絵の部分に対して説明文の部分をコトバ(詞)と称したのも、同趣の用法かもしれない。さらに、中世以後、品詞の分類に際して、広く自立語の類(体言・用言)をコトバ(詞)と総称して助辞類(てにをは)に対立させたり、名(体言)・詞(用言)・てにをはの3分類の一としてたてられたりすることがあったが、いずれも自立語(観念語)を示す概念で、文構成のうえで中核をなす品詞をさしたとみられるが、「詞」を「寺社」に例え、「てにをは」(助辞類)をその「荘厳(しょうごん)」(飾ること)に例えるという説などがあったところからみると、「ことば」(詞)は装飾に対する本体的なものという意識が潜在的に存したのかもしれない。[築島 裕]
