日本大百科全書(ニッポニカ) 「残存聴力活用型人工内耳」の意味・わかりやすい解説
残存聴力活用型人工内耳
ざんぞんちょうりょくかつようがたじんこうないじ
electric acoustic stimulation
人工内耳の一つで、低音域は補聴器がわりのスピーチプロセッサーを用いて音を増幅し(音響刺激)、高音域は電気刺激によって聴力を得ようとするもの。EASと略される。日本では2014年(平成26)に保険適用となった。人の聴力レベルはデシベル(dB)で表され、聴力レベルが90dB以上に低下した、きわめて高度な難聴に対しては、骨固定型補聴器など性能の高い補聴器も効果はなく、人工内耳が用いられる。
人工内耳は、補聴器によって音を増幅するだけでは聴力が得られない、内耳より奥の細胞や神経が障害されておこる感音性難聴に適用される。しかし感音性難聴のなかには、高音域の一定値を境に急に聞こえなくなる「高音急墜(きゅうつい)型感音性難聴」や高音域が徐々に聞こえにくくなる「高音漸傾(ぜんけい)型感音性難聴」など、高音域の聴力がきわめて低いものがある。EASはこうした高音域に難聴症状を呈する感音性難聴のうちとくに高音急墜型に有効な治療法で、一般の人工内耳と同様に内耳にある蝸牛(かぎゅう)に電極を装着するとともに外部機器のスピーチプロセッサーを併用することで、残存聴力を温存したまま、高音域の聴力回復のみならず低音域の治療にも対応できる。小児も1歳以上であれば挿入可能で、乳幼児にとって重要な言語獲得にも効果が期待されている。
[編集部]