蝸牛(読み)カギュウ

デジタル大辞泉 「蝸牛」の意味・読み・例文・類語

か‐ぎゅう〔クワギウ〕【×蝸牛】

かたつむり
内耳の一部で、カタツムリの殻状をした聴覚にたずさわる器官。基底膜などによって三つに仕切られ、人間で2回転半ほど巻き、中は内リンパで満たされている。底部は内耳道に面し、伝わってきた音を受ける神経の終末が分布する。渦巻き管。蝸牛殻
[補説]狂言の曲名別項。→蝸牛

かた‐つむり【蝸牛】

《「かたつぶり」の音変化》腹足綱有肺亜綱に属する陸生の巻き貝のうち、大形のものの総称。殻は螺旋らせん形で右巻きが多く、殻から頭や胴の一部を出して移動。頭に二対の触角を備え、長いほうの先端に目がある。湿気を好み、木の新葉や野菜を食べ、梅雨期に土中に産卵。まいまい。まいまいつぶろ。でんでんむし。かぎゅう。 夏》「今朝見れば夜の歩みや―/太祇

かた‐つぶり【蝸牛】

《「つぶり」は円い巻き貝のこと。「かた」は「固い」の「かた」とも「かさ」の音変化ともいう》「かたつむり」に同じ。

でんでん‐むし【蝸牛】

《「ででむし」の音変化》カタツムリの別名。 夏》「角出して―の涼みゐる/月斗」

でんで‐むし【蝸牛】

《「ででむし」の音変化》カタツムリの別名。

かぎゅう【蝸牛】[狂言]

狂言。やぶへかたつむりを取りに行かされた太郎冠者は、山伏をかたつむりと思い込み、連れ帰ろうとして山伏になぶられる。

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精選版 日本国語大辞典 「蝸牛」の意味・読み・例文・類語

かた‐つむり【蝸牛】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「かたつぶり」の変化した語 ) 軟体動物、有肺類に属する大形陸貝の総称。前鰓類のヤマタニシなど陸産の種を含めることもある。殻は右巻きのものが多い。頭や胴体の一部を殻の外に出して移動するが、乾燥時や驚いた時は殻の中にひっこめる。頭に二対の触角があり、長い方の一対の先端に明暗を識別できる目がある。短い方の一対は、化学物質を感じる器官といわれている。柔らかい体の表面は粘液でおおわれる。血管が網状に集まって肺の働きをする外套腔(がいとうこう)で呼吸する。口にはやすり状になった歯舌があり、これで主に枯死した草や木の葉などをなめるようにして食べ、農作物に害を与えることもある。雌雄同体で、土中に卵を産む。ふつうにみられるオナジマイマイのほか、クロイワマイマイウスカワマイマイなど日本では約六〇〇種ほど知られている。でんでんむし。かたつぶり。かいつむり。まいまい。まいまいつぶろ。まいまいつぶり。かぎゅう。ででむし。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「かたつむりを用れは其ままよひと申程に、せがれをよび出しかたつふりを取にやらうと云てよひ出す」(出典:天理本狂言・蝸牛(室町末‐近世初))

か‐ぎゅうクヮギウ【蝸牛】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙かたつむり(蝸牛)《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「蝸牛有舎客身隠、檻虎顔作気難」(出典:扶桑集(995‐999頃)七・与野土唱和往復之後余思未洩更勒二章以代懐〈惟良春道〉)
    2. [その他の文献]〔爾雅注‐釈魚〕
  2. [ 2 ] 狂言。各流。長寿の薬の蝸牛をとってくるように主(しゅう)に命ぜられた太郎冠者が、山伏を蝸牛と間違え、さんざんになぶられる。

でで‐むし【蝸牛】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「でで」は、「角(つの)よ出い出い」の意 ) 「かたつむり(蝸牛)」の異名。でんでんむし。《 季語・夏 》 〔俳諧・をだまき(元祿四年本)(1691)〕
    1. [初出の実例]「蝸牛(テテムシ)のでそこなひなり蚰蜒(なめくじり)」(出典:俳諧・広原海(1703)一)

でんでん‐でむし【蝸牛】

  1. 〘 名詞 〙かたつむり(蝸牛)」の異名。
    1. [初出の実例]「蛇と蛙の真中へでんでん蝸牛(デムシ)の笄わげ。つのめかなめとにらみ合ふ」(出典:浄瑠璃和田合戦女舞鶴(1736)一)

かた‐つぶり【蝸牛】

  1. 〘 名詞 〙かたつむり(蝸牛)《 季語・夏 》 〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
    1. [初出の実例]「いぼじり・かたつぶりなどを取り集て」(出典:堤中納言物語(11C中‐13C頃)虫めづる姫君)

かた‐つび【蝸牛】

  1. 〘 名詞 〙 ( 潟(かた)の螺(つび)の意かという ) 「かたつむり(蝸牛)」の異名。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕

でんでん‐むし【蝸牛】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ででむし」の変化した語 ) 「かたつむり(蝸牛)」の異名。《 季語・夏 》 〔物類称呼(1775)〕

かい‐つむり【蝸牛】

  1. 〘 名詞 〙かたつむり(蝸牛)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蝸牛」の意味・わかりやすい解説

蝸牛(内耳)
かぎゅう

側頭骨岩様部内にあり、内耳の一部を構成し、聴覚受容器を入れる骨性構造物。渦巻管(うずまきかん)、かたつむり管ともいう。全形がカタツムリの殻に似る円錐(えんすい)形状で、頂点(蝸牛頂)は前方に向き、底(蝸牛底)は後方を向く。高さ約4ミリメートル、底の径は約8ミリメートル。内部には中心の軸(蝸牛軸)の周りを後方から前上方に向かって2回と4分の3回転のラセン管が巻いている。その長さは約3センチメートルである。この蝸牛ラセン管内部は、蝸牛軸から出て軸を螺旋(らせん)状に巻いている骨ラセン板によって不完全に上下に分けられている。上側を前庭階(ぜんていかい)、下側を鼓室階(こしつかい)という。骨ラセン板の外側縁は蝸牛ラセン管の外壁に到達せず、その間に膜性の蝸牛管が挟まっている。蝸牛管は蝸牛ラセン管の外側縁を蝸牛の頂上まで巻き上がり、頂盲端となっている。蝸牛管の下壁の基底膜上に音波の受容器(コルチ器)がある。蝸牛軸の内部を通ってきた蝸牛神経(内耳神経の一部)がこれに分布している。蝸牛管内には内リンパ液が満たされている。

[嶋井和世]



蝸牛(狂言)
かぎゅう

狂言の曲名。山伏狂言。太郎冠者(かじゃ)は、主人から長寿の薬にカタツムリ(蝸牛)をとってこいと命じられる。ところがカタツムリを知らないので、藪(やぶ)の中にいて頭が黒く腰に貝をつけ、ときには角(つの)を出すと教わって出かける。藪の中で頭に黒い兜巾(ときん)を着けて寝ていた山伏(シテ)を太郎冠者はカタツムリかと思って尋ねる。山伏はあきれるが、からかってやろうと、腰の法螺(ほら)貝を見せたり、篠懸(すずかけ)を角のように差し上げたりして信じさせてしまう。山伏は囃子物(はやしもの)にのって行こうと、太郎冠者に囃させ、「でんでんむしむし」と音頭をとり戯れている。そこへ迎えにきた主人は驚いて、あれは山伏だと教えるが、太郎冠者は囃子物のリズムについ体が動き出してしまう。やがて主人までも引き込まれ、ともに浮かれながら入っていく。以上は大蔵流の筋で、和泉(いずみ)流では、正気づいた太郎冠者と主人を山伏が打ち倒して逃げていく。カタツムリと山伏の連想の奇抜さと、囃子物にのせられるおもしろさが眼目。

[林 和利]

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改訂新版 世界大百科事典 「蝸牛」の意味・わかりやすい解説

蝸牛 (かぎゅう)

狂言の曲名。山伏狂言。出羽の羽黒山から出た山伏が,大和の葛城(かつらぎ)山で修行を積んでの帰り道,竹やぶの中でひと寝入りしている。そこへ,主命で,長寿の薬になるというかたつむりを求めにきた太郎冠者(かじや)が出くわす。太郎冠者は,かたつむりがどんなものか知らないまま,黒い兜巾(ときん)をいただいた山伏をかたつむりと思い,声をかける。山伏は太郎冠者をからかってやろうと,ほら貝を見せたり角を出すまねをして見せるので,太郎冠者は山伏をかたつむりだと信じこみ,主人のもとへ連れて行こうとする。山伏は囃し物の拍子に乗らねば行かれないといい,冠者は教えられたかたつむりの囃し物を謡い,山伏とうち興じているところへ,主人が冠者を探しに来る。結末は主人も誘いこまれて3人で囃し物に浮かれて退場するのと,われに帰った冠者と主人が山伏を追い込むのと両様の台本・演出がある。登場人物は山伏,主人,太郎冠者の3人で,山伏がシテ。童心の世界を笑いに導入した,理屈抜きの佳作。
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百科事典マイペディア 「蝸牛」の意味・わかりやすい解説

蝸牛【かぎゅう】

内耳の一部で音の感覚を受け取る器官をいれる部分。側頭骨の中で中耳の内側にあって,カタツムリ(蝸牛)の殻の形をした,およそ2回転半の,らせん状の骨の腔所であるから蝸牛殻(かく)とも呼ぶ。その中には前庭階,鼓室階という上下の2階と中央で外壁近くにある蝸牛管という膜性の管が含まれ,リンパで満たされている。蝸牛管の中にはコルチ器と呼ぶ,リンパの振動として伝わってきた音を感受する装置がある。
→関連項目人工内耳ベケシー

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普及版 字通 「蝸牛」の読み・字形・画数・意味

【蝸牛】かぎゆう(くわぎう)

かたつむり。唐・白居易〔酒に対す、五首、二〕詩 蝸牛角上、何事をか爭ふ 石火光中、此の身を寄す 富に隨ひに隨ひ、且(しばら)く樂せよ 口を開いて笑はざるは、是れ癡人

字通「蝸」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蝸牛」の意味・わかりやすい解説

蝸牛
かぎゅう
cochlea

内耳の一部を構成する音の受容器官。カタツムリの殻状をした骨性迷路で,ラセン器を備えた膜性迷路である蝸牛管がこの内部に収められている。音の振動は,外耳,中耳を経て前庭窓から蝸牛内部の外リンパ液に伝えられる。蝸牛は哺乳類で最も発達しており,魚類では未発達。

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栄養・生化学辞典 「蝸牛」の解説

蝸牛

 内耳の一部で,かたつむり状の聴覚受容器.

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動植物名よみかた辞典 普及版 「蝸牛」の解説

蝸牛 (カタツムリ・マイマイ)

動物。陸性巻き貝でマイマイ超科のものの総称

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世界大百科事典(旧版)内の蝸牛の言及

【聴覚】より

…外耳は哺乳類で発達するが,鳥類にも一部みられる。内耳のうちで聴覚に関係するのは球形囊で,鳥類では球形囊が長くのび,哺乳類ではさらに蝸牛(かぎゆう)管に発達する。これに伴い有毛細胞の数も多くなっている。…

【内耳】より

…内耳を包んでいる組織をも含めて,この複雑な構造を迷路という。聴覚に関係する部分は蝸牛(かぎゆう)と呼び,名前のように2回転半巻いている全長約30mmの管である。平衡覚にあずかるのは,直進運動を感ずる耳石器(前庭にあり,垂直,水平の二つの方向に位置している)と,回転感を感ずる三つの半規管(三半規管)の二つに分かれる。…

【耳】より

…内耳は刺激を受容する中心的部分で,最も奥深く位置し,進化的にみて最も由来が古く,すべての脊椎動物が例外なく備えるものである。内耳の実質をなすのは〈迷路〉と呼ばれる複雑な囊状の構造で,これは動物のグループによってかなり異なるが,一般的には〈卵形囊〉とそれに付属した半円形の管である〈半規管〉,および〈球形囊〉とそれから伸びた〈蝸牛(かぎゆう)管〉という4部の中空の小囊から成る(ただし下等脊椎動物は蝸牛管をもたない)。卵形囊と球形囊は内耳の中心部をなし,これらをあわせて〈前庭〉という。…

【カタツムリ(蝸牛)】より

…カタツムリのツムリはツブ(壺),すなわち殻が膨らんだ巻貝の意であるが,カタの意は明らかでない。デンデンムシともいうが,これは〈出よ出よ虫〉の意で早く殻から体をのび出してはえということである。学術的な用語はマイマイである。…

※「蝸牛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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