日本大百科全書(ニッポニカ) 「波(山本有三の小説)」の意味・わかりやすい解説
波(山本有三の小説)
なみ
山本有三(ゆうぞう)の長編小説。1928年(昭和3)7月から11月まで『朝日新聞』に連載。「妻」「子」「父」の三部構成で、翌年2月に朝日新聞社刊。小学校教師見並行介(みなみこうすけ)は、売られた芸者屋から逃げ出してきた教え子君塚きぬ子と過失を犯し、責任感から結婚する。が、彼女は医学生と出奔し、連れ戻されるものの、男の子を生んで死んでしまう。遺児進(すすむ)が自分の子かどうかに悩んだすえに、やがて彼は、子供は私有物ではなく、社会の子であり人類の子なのだという考えにたどり着く。繰り返し打ち寄せる荒波のように、「あやまち、迷い、愛し、苦しみ、争い、疲れつつ、死んでいく」人生にあって、なお誠実に生きることの意味を問いかけた、求道的な作品。
[宗像和重]
『『定本版 山本有三全集5』(1976・新潮社)』