日本大百科全書(ニッポニカ) 「海ゆかば」の意味・わかりやすい解説
海ゆかば
うみゆかば
信時潔(のぶとききよし)作曲の日本歌曲。1937年(昭和12)作、翌年日本放送協会より合唱曲として放送。歌詞は『万葉集』巻18の大伴家持(おおとものやかもち)の長歌の一節「(大伴の 遠つ神祖(かむおや)の その名をば 大久米主(おおくめぬし)と 負(お)ひ持ちて 仕へし官(つかさ)) 海行かば 水漬(みづ)く屍(かばね) 山行かば 草生(む)す屍 大君(おおきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ 顧(かへり)みは せじ(と言立(ことだ)て ますらをの 清きその名を)……」からとる。天平(てんぴょう)21年(749)4月1日、陸奥(むつ)国で金が初めて国内から産出したことを賀した詔(みことのり)が出され、そのなかで、大伴氏が先祖代々「海行かば」を家訓として忠誠に励んだことに触れてあったのに対し、家持が感激してつくったものである。
荘重な調べの歌曲は、昭和初期の軽薄な世相を正し、非常時態勢下の国民の自覚を高める意図があったが、太平洋戦争末期には「玉砕」や戦死者のニュースのテーマ音楽に使われ、弔歌の色合いを濃くしていった。
[小川乃倫子]