化学辞典 第2版 「混合原子価錯体」の解説
混合原子価錯体
コンゴウゲンシカサクタイ
mixed valence complex
同一の金属原子が複数含まれる化合物で,形式的に金属原子の原子価が異なる錯体の総称.たとえば,Fe2+ 水溶液に [Fe(CN)6]3- を加えてできるプルッシアンブルー(FeⅢ4[FeⅡ(CN)6]3・xH2O,FeⅢK[FeⅡ (CN)6])などがある.金属原子間の相互作用の大きさにより,クラスⅠ(相互作用がないか,非常に小さいもの),クラスⅡ(相互作用が小さいもの),およびクラスⅢ(相互作用が大きいもの)に分けられる.クラスⅠは二つの金属原子が非常に離れているか,金属原子まわりの環境が大きく違っている場合にみられる.典型例として,スピネル型構造をとるCo3O4(CoⅡ CoⅢ2O4)で,CoⅡは四面体,CoⅢは八面体型構造をとり,その分光学的,磁気的性質は構成する金属錯体の性質とほとんど変わらない.クラスⅡには,例として,[(NH3)5Ru(4,4′-bpy)Ru(NH3)5]5+(4,4′-bpy:4,4′-ビピリジン)があり,一方の金属原子が二価で,他方が三価であると特定できるが,相互作用の大きさに応じて構成する単量体錯体の性質からの変化がみられる.クラスⅢでは,電子は複数の金属原子に非局在化しており,それぞれの金属原子の酸化数は等しい.典型例として,[(NH3)5CoO2Co(NH3)5]5+ や [(NH3)5Ru(pyz)Ru(NH3)5]5+(pyz:ピラジン)などがあり,どの金属原子が二価であるか,三価であるか特定できず,どちらの金属原子も2.5の酸化状態にある.クラスⅢ型混合原子価錯体の性質は,可視紫外部の吸収,酸化還元電位,分子振動など,対応する見掛けの原子価をもつ単量体錯体と異なる.クラスⅡおよびクラスⅢの錯体では,インタラクションカラーとよばれる吸収帯が可視部から近赤外部に現れる.多くの混合原子価錯体が濃い色をもつ原因がこれであり,光の吸収により一方の金属原子から他方の金属原子へ電子移動が起こることによる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報