日本大百科全書(ニッポニカ) 「特設艦船」の意味・わかりやすい解説
特設艦船
とくせつかんせん
戦時または事変時に海軍兵力の不足を補うため、民間所有の商船・漁船を徴傭(ちょうよう)、あるいは官有船を臨時移管して、これに所定の兵装・艤装(ぎそう)を施し、海軍軍人指揮のもとに艦艇兵力の補助として用いる船舶。一般に正規の艦艇より速力・装備が劣るが、大容積、広い甲板面積、長大な航続力などの特質を活用し、適材適所に使用すれば有効な戦力になりうる。19世紀後半より各国とも特設艦船整備に努力するようになり、日本海軍は日清(にっしん)戦争から使用を開始した。第二次世界大戦では、主要交戦国海軍はいずれも多数の特設艦船を使用し、日本も大は大型商船改造の巡洋艦・航空母艦・水上機母艦から、小は漁船改造の駆潜艇・監視艇などに至る多くの艦船を戦闘任務に供した。これら日本の特設艦船は、正規の艦艇の類別等級に準じて、特設軍艦、特設特務艇、特設特務艦船に類別されていた。
第二次世界大戦後、艦艇の能力向上と兵器系の著しい発達により、特設艦船の価値が減じたかにみられたこともあったが、近年、コンテナ船、ロールオン・ロールオフ船(車両簡易輸送船)など比較的大型かつ速力が速く、船内・船上スペースが広くて軍事利用上の制限が少ない形式の商船が出現し、対潜・対空兵器システムのモジュール化、コンテナ方式化の発達、VTOL(ブイトール)機・ヘリコプターの実用化などにより商船の軍事活用価値が重視されだし、1982年のフォークランド戦争でイギリス海軍が多数の特設艦船を使用してその価値を立証した。
[阿部安雄]