改訂新版 世界大百科事典 「猿源氏草紙」の意味・わかりやすい解説
猿源氏草紙 (さるげんじそうし)
江戸時代,寛文年間(1661-73)に大坂心斎橋の書肆渋川清右衛門が〈いにしへのおもしろき草子〉を選び,《御伽文庫》と名づけ板行した23編中の一つ。室町時代の成立。作者未詳。《鰯(いわし)売り》と題した古写本も存し,《言経卿記(ときつねきようき)》慶長2年(1597)2月5日条の〈鰯ウリノ物語〉は同じものと思われる。内容は,鰯売りの猿源氏が和歌連歌の歌徳により五条東洞院の傾城〈蛍火〉との恋を遂げ,立身出世するというもので,猿源氏は光源氏の名を踏まえており,いわば《源氏物語》の庶民版草子ともいえる。舅の海老名南阿弥陀仏は世阿弥の《申楽(さるがく)談儀》に見える実在人物で,五条東洞院には将軍足利義満の夫人の一人,高橋殿のごとき色好み(高級遊女)がおり,時代を最もよく表している御伽草子である。寛永・正保(1624-48)刊の1巻本,丹緑版本もあり,寛文(1661-73),元禄(1688-1704)ごろ版の2巻本も存する。
執筆者:岡見 弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報