傾城(読み)ケイセイ

デジタル大辞泉 「傾城」の意味・読み・例文・類語

けい‐せい【傾城/契情】

《「漢書」外戚伝の「北方佳人有り。…一顧すれば人の城を傾け、再顧すれば人の国を傾く」から。その美しさに夢中になって城を傾ける意》
絶世美女傾国
遊女近世では特に太夫天神など上級の遊女をさす。
[補説]「契情」は当て字
[類語](1美人別嬪べっぴん美女麗人佳人かじん美形美姫びき尤物ゆうぶつ名花解語の花シャン小町マドンナ色女大和撫子美少女傾国/(2芸者芸妓芸子綺麗どころ左褄名妓美妓傾国半玉花魁おいらん

けい‐せん【傾城】

《「けいせい(傾城)」の音変化》遊女。
「―買うて、人のかねを盗み」〈浄・冥途の飛脚

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精選版 日本国語大辞典 「傾城」の意味・読み・例文・類語

けい‐せい【傾城・契情】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「漢書‐光武李夫人」の「北方有佳人、絶世而独立、一顧傾人城、再顧傾人国」から出た語 )
  2. 美人の色香におぼれて、城や国を傾け滅ぼすこと。
    1. [初出の実例]「正月より二月十七日までは御精進なりとて、御けいせいなどいふ御沙汰、絶えてなし」(出典:とはずがたり(14C前)一)
  3. 美しい女性。美人。美女。傾国。
    1. [初出の実例]「夜陰に及で、陣外より傾城のもとへかよはれん時」(出典:平家物語(13C前)四)
  4. 遊女。女郎。近世には特に太夫、天神など上位の遊女をさすことがある。傾婦。
    1. [初出の実例]「一条桟敷屋に、ある男とまりて、傾城とふしたりけるに」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一二)
    2. 「名を傾国と今の世も人の心をやはらぐる。和国にながれ立花の、花の情のちぎりと書いてけいせいとはなづけたりや」(出典:浄瑠璃・用明天皇職人鑑(1705)鐘入)

けい‐せん【傾城】

  1. 〘 名詞 〙 「けいせい(傾城)」の変化した語。〔かた言(1650)〕
    1. [初出の実例]「けいせん買ふて人の金を盗み、其のけいせん連れて走られたといふて」(出典:浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)下)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「傾城」の意味・わかりやすい解説

傾城(歌舞伎舞踊)
けいせい

歌舞伎(かぶき)舞踊の一ジャンル。「傾城」といわれた最上級の遊女の風俗を描いたもの。その数は多いが、たいていは変化舞踊の一つとしてつくられた長唄(ながうた)の曲で、伊達兵庫(だてひょうご)という髪型に裲襠(うちかけ)姿の正装で傾城が登場、その心境を風格のなかに見せるもの。歌詞の冒頭の一句か、初演俳優の名をとった通称でよばれる。(1)現存最古の曲は1811年(文化8)3月、江戸・市村(いちむら)座で3世中村歌右衛門(うたえもん)初演の「仮初(かりそめ)の傾城」(七変化『遅桜手爾葉七字(おそざくらてにはのななもじ)』の一つ)である。以下おもな作品は次のとおり。(2)3世坂東(ばんどう)三津五郎初演「門(かど)傾城」(『四季詠寄三大字(しきのながめよせてみつだい)』1813)、(3)7世市川団十郎初演「後朝(きぬぎぬ)傾城」(『拙業再張交(へたざいくにどのはりまぜ)』1814)、(4)同「初雁(はつかり)傾城」(『復新三組盞(またあたらしくみつのさかずき)』1824)、(5)2世中村芝翫(しかん)(4世歌右衛門)初演「恋(こい)傾城」、別称「芝翫傾城」(『拙書力七以呂波(にじりがきななついろは)』1828)、(6)同「秋傾城」、別称「八月傾城」(『花十二月所作(はなきょうだいねんじゅうぎょうじ)』1840)、(7)4世市川小団次初演「小団次の傾城」(『寄三升花四季画(よせてみますはなのにしきえ)』1854)、(8)4世中村芝翫初演「雪傾城」(『月雪花名歌姿絵(つきゆきはなめいかのすがたえ)』1865)など。

[松井俊諭]


傾城(花魁、娼妓)
けいせい

花魁(おいらん)、娼妓(しょうぎ)の異称。『漢書(かんじょ)』に美人を「一顧傾人城再顧傾人国」と表現したのに基づく。傾国とよぶのも出典は同じ。初めは雅言であったが、のちには遊女、女郎などの同義語として広く使用され、傾城町傾城屋などの熟語もある。明治以後はほとんど使われなくなった。

[原島陽一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「傾城」の意味・わかりやすい解説

傾城
けいせい

美人の意,および遊女の意。漢書に美人を「一顧傾人城,再顧傾人国」と表現したのに基づき,古来君主の寵愛を受けて国 (城) を滅ぼす (傾ける) ほどの美女をさし,のちに遊女の同義語となった。浄瑠璃,歌舞伎の役柄に多く取入れられ,女方の基本の一つとされる。特に上方歌舞伎では『傾城浅間獄』『傾城壬生大念仏』など,「傾城」「契情」「けいせい」の字を外題につける習慣があった。歌舞伎舞踊では変化物に多く,立役が傾城を演じることで,意外性と芸の力を示したものと思われる。3世中村歌右衛門の『仮初 (かりそめの) 傾城』と2世中村芝翫の『恋傾城』 (『芝翫傾城』) が最も知られる。ともに長唄で,名称はうたい出しの文句からとられた。前者は文化8 (1811) 年江戸中村座の『遅桜手爾葉七字 (おそざくらてにはのななもじ) 』の七変化の一つ。作詞奈河篤助,松井幸三,作曲杵屋六左衛門。後者は文政 11 (1828) 年同座の『拙筆力七以呂波 (にじりがきななついろは) 』の七変化の一つで,作詞2世瀬川如皐,作曲4世杵屋三郎助 (10世六左衛門) 。長唄の曲としては,ほかに数曲が伝わる。

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普及版 字通 「傾城」の読み・字形・画数・意味

【傾城】けいじよう(じやう)・けいせい

城を危うくする。絶世の美女。〔詩、大雅、瞻〕哲夫、し 哲を傾く

字通「傾」の項目を見る

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改訂新版 世界大百科事典 「傾城」の意味・わかりやすい解説

傾城 (けいせい)

遊女の漢語系別称。語源は《漢書》に見える〈一顧傾人城 再顧傾人国〉の詩による。この句から傾城とも傾国ともいう。ただし,原句は絶世の美女の形容であり,遊女ではなかったが,日本では平安時代から江戸時代まで遊女の別称として使われた。遊女などの類語との概念に差異はないが,概して高級の公娼を指すことが多く,私娼に用いることは少ない。江戸時代の文学や芝居の題名に多数使用されており,遊廓を傾城町と称した例は法令にも使われている。
傾城物
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百科事典マイペディア 「傾城」の意味・わかりやすい解説

傾城【けいせい】

傾国とも。男子がその色香におぼれて城も国も顧みないほどの美女。転じて遊女の称。中国,春秋時代の呉王の愛姫西施(せいし)は傾城の美女として有名。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「傾城」の解説

傾城
〔長唄〕
けいせい

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
演者
杵屋六左衛門(9代)
初演
文化8.3(江戸・中村座)

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世界大百科事典(旧版)内の傾城の言及

【傾城物】より

…歌舞伎舞踊の一系統。〈傾城〉と呼ばれた高級な遊女を題材にしたもの。廓を多く題材とした元禄歌舞伎の傾城事の流れをくむが,所作事が発生したといわれる貞享年間(1684‐88)にすでに傾城を扱った所作事がある。…

※「傾城」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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