獅子狩文(読み)ししがりもん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「獅子狩文」の意味・わかりやすい解説

獅子狩文
ししがりもん

狩猟文の一種。元来ペルシアで発生した文様で、騎馬の人物が弓を引き獅子を撃つ情景を表した文様のこと。この文様の系統には、隋(ずい)・唐を経て日本へ伝わったものと、東ローマ帝国を経てヨーロッパ諸国へ伝わったものとの2種がある。

 ササン朝ペルシア国王は、ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダーによって、地上に遣わされた支配者であると考えられていた。また獅子は百獣の王であり、もし神の意志があるならばこれを射止められるが、神の意志のない場合は逆に噛(か)み殺されると信じられていた。そこでペルシアの王たちは、自分が神に遣わされた地上の支配者であることを示すために、獅子を狩り、射止めなければならなかった。国王たちがこの獅子を射る自らの姿を金銀の器や織物に描かせたことが、この文様の起源といわれる。奈良・法隆寺の四騎獅子狩文錦(にしき)もその一つで、連珠文のなかに、聖樹を中心に上下左右にペガサスにまたがる4人の騎手を表している。

村元雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の獅子狩文の言及

【獅子】より

…ウル第1王朝期以降の遺物にみられる動物闘争文には牛にかみつく獅子文があり,その文様は後にペルシアのペルセポリスの浮彫にも用いられている。狩猟文としてはアッシリアのニムルド王宮の壁面彫刻にすでにあらわれ,特に馬上から騎士が身を翻して獅子を射る姿をあらわした獅子狩文はアッシリアよりペルシアまで銀皿などにさかんに用いられている。獅子狩文では獅子は必ず前足を上げて立ち上がり,尾をぴんと上げ口を開けて咆哮している。…

※「獅子狩文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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