瓶史(読み)へいし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「瓶史」の意味・わかりやすい解説

瓶史
へいし

中国における瓶花の代表的な書。著者は明代の文人袁宏道(えんこうどう)、字(あざな)は中郎(1568―1610)で、1600年(万暦28)の刊。気品の高い文人思想に貫かれ洗練された文章とともに優れた花書としてとくに日本人に親しまれた。内容は序文に続いて「花目」「品第(ひんてい)」「器具」「択水(たくすい)」「宜称(ぎしょう)」「屏俗(へいぞく)」「花崇(かすう)」「洗沐(せんもく)」「使令(しれい)」「好事(こうじ)」「清賞」「監戒(かんかい)」の12条からなり、序文で世塵(せじん)を離れて花竹の美しさを賞する楽しみとして瓶花を勧め、各項で瓶花の心得を示し、「清賞」では茶を飲みながら花を眺めるのを第一とし文人趣味を端的に表現している。本書は1696年(元禄9)日本でも出版され、いけ花界に多大な影響を与え、1740年(元文5)刊の『抛入岸之波(なげいれきしのなみ)』はその思想、体裁まで取り入れ、また注解書として1809年(文化6)『瓶史国字斛(かい)』が出版された。さらにはその思想をいけ花流儀とした宏道流(袁中郎流)という流派の出現をみるなど、江戸の文人生(いけ)を生む母体ともなっている。

[北條明直]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の瓶史の言及

【いけばな】より

…このことは幕府の倫理強化策とも相まって,生花を婦女子の修徳の習い事として庶民のあいだに浸透させることともなり,多数の社中を擁する流派が成立し組織としての家元制度の基盤が形づくられることとなった。生花の花形が定型化することを嫌った人々のなかでも文人墨客たちは,文化・文政期ころより流行した煎茶道を愛好し,中国の花書《瓶史》の影響を受けて,文人花(ぶんじんばな)を楽しみ,抛入花の中での新しい分野をつくりあげた。盛物(もりもの)とともに隠逸を愛する文人たちに支持された。…

※「瓶史」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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