改訂新版 世界大百科事典 「真間手児名」の意味・わかりやすい解説
真間手児名 (ままのてこな)
下総国葛飾郡真間(現,千葉県市川市真間町)に住んでいたという美少女。《万葉集》巻三,九に山部赤人,高橋虫麻呂作歌,巻十四東歌(あずまうた)に2首がある。粗末な麻衣に青い襟(えり)をつけ,髪もけずらず沓(くつ)も履かずという貧しい少女だったらしいが,多くの男たちに求婚され,なんとわが身を分別したものか,花の盛りを入江に入水して果てたという。美少女・男たちの求婚・投身・娘子墓という4点で菟原処女(うないおとめ)伝説と共通点がある。今日,真間町に安産の神として手児奈堂に祭られ,いつも水をくんだという真間の井,男たちがやまず通ったという真間の継橋もある。この話,後世には継子(ままこ)いじめ譚と化したらしく,太宰春台《継橋記》には,結婚に反対する継母のせっかんを受けて投身した橋を継橋(ままはし),井を継井(ままのい)と名づけて継母の悪を懲らしめる記念とした,とある。〈葛飾の真間の手児名がありしかば真間の磯辺(おすひ)に波もとどろに〉(《万葉集》東歌)。
執筆者:井村 哲夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報