日本大百科全書(ニッポニカ) 「知恵の悲しみ」の意味・わかりやすい解説
知恵の悲しみ
ちえのかなしみ
Горе от ума/Gore ot uma
ロシアの劇作家グリボエードフの四幕喜劇。1824年作。舞台は1820年代のモスクワ。3年ぶりに外国の旅から帰ったチャツキーが旧知のファームソフ家でみたものは尊大と追従(ついしょう)、因習と愚昧(ぐまい)の世界であった。彼は舞踏会でこの汚辱に満ちた上流階級を面罵(めんば)するが、かえって狂人扱いされる。封建的農奴制ロシアに対する痛烈な風刺喜劇として、多くの台詞(せりふ)が慣用句となり登場人物の名が普通名詞となったほどである。戯曲は厳しい検閲にあい、作者の生前には上演を許されず、本文は写本として流布、1858年国外で、62年ロシア本国で初めて出版された。
[野崎韶夫]
『米川正夫訳『知恵の悲しみ』(『ロシア文学全集35』所収・1959・修道社)』