日本大百科全書(ニッポニカ) 「竇娥冤」の意味・わかりやすい解説
竇娥冤
とうがえん
中国、元代の戯曲。四折(せつ)(幕)。関漢卿(かんかんけい)作。借金のかたに7歳で金貸しの蔡(さい)後家にもらわれた竇娥は、幼夫が病死し、20歳の寡婦。ごろつき張驢児(ちょうろじ)とその父は、2人が寡婦なのにつけこみ結婚を迫り蔡家に住み着く。驢児は蔡後家を毒殺し罪を竇娥に着せ、おどしてめとろうと計画したが、死んだのは父であった。竇娥は姑(しゅうとめ)を拷問から守るため、舅殺しの罪をかぶり処刑される。彼女は無実を叫び、夏に雪が降り血は舞い上がると言い残し、そのとおりの現象がおこる。科挙に及第して検察長官になった父竇天章の夢枕(ゆめまくら)に竇娥は張驢児の悪事を訴える。父は裁判をやり直し娘の恨みを晴らす。全四幕を通し竇娥が唱(うた)い、四幕は亡霊姿で唱うがすこしも不自然を感じさせない。関漢卿の代表作の一つであり、元曲最高の悲劇。
[平松圭子]
『田中謙二訳『竇娥寃』(『中国古典文学大系52 戯曲集 上』所収・1970・平凡社)』