改訂新版 世界大百科事典 「累進交雑」の意味・わかりやすい解説
累進交雑 (るいしんこうざつ)
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畜産後進地の未改良の家畜を遺伝的に改良する場合にしばしば用いられる交配法で,貴化ともいう。改良種の雄を導入して,在来の品種の雌に交雑して生まれた雑種第1代の雌に,再度改良種の雄を交配し,さらにその次代にも改良種を交配するという方法で,これにより代を重ねるごとに改良種に近づけることができる。雑種第1代ではその個体の遺伝子の50%が改良種のものであるが,理論的には2回雑種では75%,3回雑種では88%が改良種の遺伝子となる。累進交雑を重ねるとともに,選抜淘汰を加えていけば,普通6代ぐらいで実用的に純粋な改良種と変わらぬものが得られる。改良種の雄を用いるのは,雌より雄のほうが多数の次代を作出することができるためで,この方法により後進地域の家畜を比較的簡単に先進地の水準に近づけることができる。ただし,導入する家畜品種が,その地方の気候風土に適応することができるか否かを慎重に検討する必要があり,これを怠ると一代雑種で向上した生産能力が,累進交雑を重ねることによってかえって低下して,所期の成果を収め得ないことがある。インドでインド牛の乳用種をホルスタイン種で貴化した際,2回雑種以降は暑熱に対する抵抗性が低くなって泌乳成績も低下した例がある。
執筆者:正田 陽一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報