肺動脈弁狭窄症(読み)はいどうみゃくべんきょうさくしょう(英語表記)Pulmonary stenosis

六訂版 家庭医学大全科 「肺動脈弁狭窄症」の解説

肺動脈弁狭窄症
はいどうみゃくべんきょうさくしょう
Pulmonary stenosis
(循環器の病気)

どんな病気か

 右心室から肺動脈が出ていますが、その付け根に弁がついています。その弁を肺動脈弁といいます。肺動脈弁が狭いと、右心室の圧が上がります。右心室の圧が上がりすぎると障害が起こるので、治療が必要になります。

 20年前までは手術をしていましたが、今日では幼児小児成人を問わずカテーテルで治すようになり、肺動脈弁狭窄症に対する手術はほとんど行われなくなっています。

症状の現れ方

 通常は何も症状はありません。心雑音で見つかることがほとんどです。中年以降では、疲労しやすいなどの症状が現れることがあります。

 中程度以上の本症が見逃されていた場合には、運動時に突然死する可能性があります。

検査と診断

 どのような場合に治療が必要なのでしょうか? 手術をしていた時代の経験からは以下のようにいうことができます。

 すなわち、「右心室­肺動脈の間の圧力の差が50㎜Hg以下の患者さんの大部分は手術をしない、圧力差80㎜Hg以上の患者さんの大部分は手術を施行、その中間は手術と非手術が混在」とした患者さん群の25年間の生存率は、正常人群の生存率と変わらなかったという報告があります。つまり、圧差50㎜Hg以上なら手術を行うという方針でよいという結論です。

 カテーテル治療の場合には、手術よりは合併症が少なく治療できるので、適応は厳密に50㎜Hgではなく、圧差30~50㎜Hg以上といえます。

治療の方法

 カテーテル治療の方法は、専用のバルーンカテーテル静脈を通して弁の位置にもっていき、バルーンを拡張させて狭い弁を裂開(れっかい)させます。

 カテーテル治療の年齢は、できれば生後6カ月以降のほうがよいのですが、重症の場合では年齢制限はありません。普通は(中等度の狭窄であれば)2~5歳が最適年齢です。

 新生児で重症の場合にはただちに治療を行いますが、専門家の手で行われるべきです。また、高齢者でもカテーテル治療は可能で、小児から成人まで年齢制限はないといえます。

 カテーテル治療が成功する確率は95%くらいですが、肺動脈弁が厚ぼったいと不成功となる場合があり、手術が必要になることがあります。また、弁のすぐ上の肺動脈が狭くなっている場合も手術が必要です。

 新生児や乳児で重症でないかぎり、ほぼ安全に治療ができます。

中西 敏雄

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「肺動脈弁狭窄症」の解説

肺動脈弁狭窄症(後天性弁膜症)

概念
 右室流出路の狭窄により血流が障害された状態.
分類
 弁上部狭窄,弁性狭窄,弁下部(漏斗部)狭窄.
病因
 先天性心疾患に合併するものがほとんどで後天性はまれである.
疫学
 95%が先天性とされ,最も多い心奇形の1つ.後天性ではリウマチ性弁膜症や感染性心内膜炎,カルチノイド症候群にみられる.
病理
 胎生期に肺動脈弁の三尖弁が分割せずに発育すると弁性狭窄となり,右室漏斗部室上稜の吸収が不十分な場合は漏斗部狭窄になる.
病態
 右室-肺動脈圧較差を生じる.右室圧負荷から右心不全に至る.
臨床症状
1)自覚症状:
重症でなければ成人に達するまで無症状に経過することが多い.成人して労作時呼吸困難,易疲労感が出現する.重症例では幼児期から呼吸困難があり,労作時呼吸困難,胸痛,失神発作がみられる.
2)他覚症状:
通常チアノーゼは認めない.
検査成績
 心エコー図連続波ドプラ法により肺動脈弁口最大速度を計測し,ΔP=4V2の式から右室-肺動脈圧較差を算出することにより重症度の判定に用いることができる.
診断
 肺動脈領域における収縮期駆出性雑音を聴取し,右室肥大がみられる.心エコー図で肺動脈弁口の狭小化,収縮期の弁のドーム形成が認められる.心臓血管造影法により狭窄を確認することもできる.
鑑別診断
 肺高血圧,拡張型心筋症,肥大型心筋症など.
合併症
 先天性の場合は,ほかの合併心奇形の存在に留意する必要がある.
経過・予後
 軽症のものは経過観察で予後はよい.
治療
 重症度に応じて外科手術を要する.弁性狭窄に対してはバルーンカテーテルを用いた弁切開術が行われることがある.[兵頭永一・吉川純一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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