…この林屋説は,以後,散所研究はむろんのこと,被差別部落史研究全体に深刻な影響をおよぼしてきている。 69年,脇田晴子はその著《日本中世商業発達史の研究》において林屋説に対する根本的な批判を試みて,散所とは〈本所(ほんじよ)〉に対する〈散在(さんざい)の所〉という意味で,そこに属した人々すべてが賤視(蔑視)されたわけではなかったが(第一次的散所),その後,土地に対する権利をつよめることができなかった人々(非農業民たち)がその居住地域とあわせて賤視の対象となるにいたった(第二次的散所)のであって,後者がいわゆる中世の散所なのだと主張した。これを契機として林屋・脇田双方の間に激しい論争を生むとともに,いっぽうでは散所という語の早期の所出例が発見されたり,律令官職制での中下級官人との関係の深さが説かれたり,また中世前期と後期との〈散所観〉の違い,すなわち,賤視されることのなかった時代から賤視される時代への転換に日本の社会構造そのものの大転換をみとめようとする考え方もあらわれていて,きわめて流動的であるといえよう。…
※「脇田晴子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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