内科学 第10版 の解説
脳で産生される摂食亢進物質(摂食調節ホルモンと肥満)
a.ニューロペプチドY(NPY)
NPYは強力な摂食亢進をもたらす36アミノ酸からなるペプチドで,NPY産生ニューロンは,血液脳関門が比較的脆弱で末梢の液性情報を受容しやすい視床下部弓状核に存在している.NPYは,レプチンからの負の制御を,またグレリンから正の制御を受けている.NPY受容体には5つのサブタイプ(Y1,Y2,Y4,Y5,Y6)があり,視床下部室傍核に存在するY1とY5が,CRHの合成と分泌を抑制して摂食亢進に機能する.Y2受容体はPYYの受容体として摂食抑制に作用する.
b.AgRP(アグーチ関連蛋白質)
アグーチ蛋白質は,通常は皮膚に限局して発現し色素沈着に関与しているが,遺伝子異常により全身性に発現すると,摂食抑制に機能するMC4型受容体の拮抗物質として作用し,摂食を亢進する.AgRPはアグーチ蛋白質と25%の相同性を有する132アミノ酸残基からなる蛋白質で,視床下部弓状核のNPYと同一ニューロンで産生される.
c.オレキシン
視床下部外側野で産生される神経ペプチドで,摂食亢進に機能している.33アミノ酸残基からなるオレキシンAと28アミノ酸残基からなるオレキシンBの2種類があり,ともに131アミノ酸残基からなるプレプロオレキシンから生成される.オレキシン受容体には2つの型があり,オレキシンAは両者に,オレキシンBは2型受容体に結合する.オレキシン神経線維は,脳全体に投射しており,オレキシンの脳室内投与は,摂食・飲水量の増加,覚醒レベルの上昇,自発運動の亢進,常同運動の顕在化,交感神経系の活性化などをもたらす.オレキシンの欠損はナルコレプシーの原因となる.
d.メラニン凝集ホルモン(melanin-concentrating hormone:MCH)
サケの下垂体から発見された神経ペプチドで,哺乳類では視床下部外側野で産生され,摂食亢進に機能する.MCH受容体には2つのサブタイプがあり,MCHの摂食亢進には1型が関与する.[中里雅光]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報