改訂新版 世界大百科事典 「舞曲扇林」の意味・わかりやすい解説
舞曲扇林 (ぶきょくせんりん)
舞踊を中心とする歌舞伎の理論書。初世河原崎権之助著。刊記を欠くため刊行年月は不明であるが,1689年(元禄2)ごろの成立,刊行と推測される。2巻。28ヵ条から成る。第1~11条は若衆歌舞伎や十六番小舞の始まりなど,舞踊を主とする歌舞伎の由来について説く。第12~14条は〈虚実景曲平転〉の六態を取り上げて,舞の技巧の本質を論じ,手本となるべき諸名優の舞ぶりについて記している。第15~17条は舞の技術的な面に関する論考。第18,19条は舞の程(ほど)拍子,第20,21条は舞における表現の在り方,第22~26条は演技表現や作劇,囃子などのあるべき姿を述べたもの。第27条は歌舞伎に関する事物起源,第28条は伊勢踊の始まりを扱っている。要するに,今様芸の根源を尋ねるとともに,古今の名優の芸を尺度として舞台の現状を批判するというのが本書の意図であった。
執筆者:今尾 哲也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報