日本大百科全書(ニッポニカ) 「英彦山の松会」の意味・わかりやすい解説
英彦山の松会
ひこさんのまつえ
福岡県の英彦山神宮(田川郡添田(そえだ)町)の3月15日(もと陰暦2月)の春行事。英彦山は九州最大の修験(しゅげん)道場であり、この春行事のもとは、修正会(しゅしょうえ)あるいは修二会(しゅにえ)にあった。松会とよんだのは、大きな柱松(はしらまつ)を立て、それに験者(けんじゃ)が登って幣切(へいき)りなどの験法を行うことにちなむ。古くは延年(えんねん)として、田楽(でんがく)、猿楽風流(さるがくふりゅう)、御田(おんだ)(田遊(たあそび))や、さまざまな験競(くら)べが行われていたが、今日では御田だけが伝えられている。
松会とよばれる春行事は、同じく修験道場の福岡県豊前(ぶぜん)市岩屋町求菩提山(ぐぼてさん)(3月29日)、同京都(みやこ)郡苅田(かんだ)町等覚寺(とうかくじ)(4月19日)、同築上(ちくじょう)郡上毛(こうげ)町松尾山(4月19日)、大分県中津(なかつ)市耶馬渓町(やばけいまち)地区の檜原山(ひばるさん)(4月19日)に現存している。いずれも御田を伝えているが、柱松の験法は等覚寺と檜原山に、田楽は松尾山にのみ遺存している。これらの御田には、屋理巻(やりまき)とよぶ巻物に記された古謡を用い、英彦山の御田よりも古風を残している。
[新井恒易]