血管外傷

内科学 第10版 「血管外傷」の解説

血管外傷(心臓・血管外傷)

a.大動脈
 高所転落,交通事故など鈍的胸部外傷による圧迫や腹圧の上昇によって大血管・大動脈弓損傷を生じるが,大血管の断裂のなかで胸部大動脈の断裂が最も多い.本症は,左鎖骨下動脈分岐部直下に好発する(大動脈峡部).内膜から外膜までの完全断裂では大量の胸腔内出血をきたして失血死するが,損傷が内膜,中膜,外膜の一部にとどまれば,失血死を免れる.生存例では胸背部の疼痛とともに,縦隔血腫,偽性動脈瘤による圧迫,あるいは内膜,中膜の解離による内腔狭窄病変により上肢の血圧上昇,下肢の血圧低下,脊髄および腎臓の虚血症状を引き起こす.
 胸部大動脈損傷の診断に経食道エコーが有用であるが,上行大動脈や大動脈弓部に損傷が疑われ,鎖骨下動脈,無名動脈,総頸動脈などとの鑑別がつかない場合には,血管造影検査や造影CTの適応である.診断が確定すれば可及的速やかに手術が必要である.
b.冠動脈
 非穿通性外傷により急性心筋梗塞を発症することがあるが,既往にある冠動脈疾患プラーク剥離による閉塞の可能性もある.正常血管でも内膜の断裂や壁内出血によって閉塞をきたしうる.
 合併症は冠動脈疾患と類似する不整脈,心不全や偽性心室瘤であるが,その予後は損傷部位以外の血管は正常であることから,冠動脈疾患に起因した心筋梗塞例よりも良好である.穿通性外傷では左冠動脈損傷の頻度が高い.
c.医原性心臓血管外傷
 中心静脈カテーテル,心臓カテーテル検査,カーテル電極による心臓・動静脈血管の穿孔や心膜穿刺による心室穿刺がある.右房,右室の穿孔では経過観察のみで済むことが多いが,特徴的な心タンポナーデ所見が出現すれば,直ちにドレナージが必要になる.また,心内膜心筋生検や経皮的冠動脈形成術でも穿孔,冠動脈破裂がときにみられ,心内異物として伏針と医原性に生じたカテーテルの離断・破損がある.
 心肺蘇生術時に,重大な合併症が生じることがある.特に閉胸式心マッサージにより左室破裂,右室破裂,右室乳頭筋断裂,心房や大動脈破裂ならびに胸骨骨折,血胸,気胸などを生じる.また,多発肋骨骨折によってフレイルチェストとよばれる呼吸障害が出現するので,注意を要する.[岸田 浩]
■文献
Awtry EH, Colucci WS, et al: Tumors and trauma of the Heart. In: Harrison’s Principles of Internal Medicine, 18th ed(Fauci AS, Braunwald E, ed), pp1981-1982, McGraw-Hill, New York, 2012.
Maron BJ, Gohman TE, et al: Clinical profile and spectrum of commotio cordis. JAMA, 287: 1142-1146. 2002.
Wall MJ, Jr, Tsai PI, et al: Traumatic Heart Disease. In: Braunwald’s Heart Disease: A Textbook of Cardiovascular Medicine, 9th ed(Bonow RO, Mann DL, et al ed),pp1672-1677, Saunders, Philadelphia, 2012.
山口大介,田中行夫,他:外傷性心疾患.循環器病学―基礎と臨床,初版(川名正敏,北風政史,他編),pp1314-1322,西村書店,東京,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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