改訂新版 世界大百科事典 「誠斎雑記」の意味・わかりやすい解説
誠斎雑記 (せいさいざっき)
向山(むこうやま)誠斎(篤,源大夫)が編述した雑書。原題は編述した年の干支をとって〈戊戌雑記〉(1838(天保9))などと題したものが〈丁未雑記〉(1847(弘化4))まで,この年以後は〈戊申雑綴〉(1848(嘉永1))など雑綴と題するものが編者の死没した1856年(安政3)の〈丙辰雑綴〉まである。誠斎自筆本を主とする東京大学史料編纂所の蔵本は,彼の養子向山黄村の寄贈したものであるが,雑記93冊,雑綴86冊を存し,なお多くの欠本を数えるから,原編はきわめて大部の叢書であった。誠斎は幕臣で奥右筆,勘定組頭,箱館奉行所支配組頭などを歴任した。本書には新井白石など学者の著作,詩歌集,漢籍の抄録など雑多な種類の筆録も相当数含んでいるが,編者の経歴に関係ある江戸城中諸行事の規式,江戸時代前期以来の諸事件の記録抄録,また幕府勘定所関係の財政経済史料,当時の重要国事であった海防問題にかかわる文書・記録などが多数収録されており,史料の散逸がいちじるしい幕政史料を補うものとして価値が高い。このうち江戸に関係する一部分のみが《江戸叢書》に収められ刊行されている。
執筆者:村井 益男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報