改訂新版 世界大百科事典 「越甸幽霊集」の意味・わかりやすい解説
越甸幽霊集 (えつでんゆうれいしゅう)
Viet Dien U Linh Tap
ベトナムの伝説集。ベトナム北部各地の祠廟等にまつられていた守護神や土地神などの伝説を集めたもの。チャン(陳)朝の1329年,リ・テー・スエン(李済川)が編集した。編者不明のリ(李)朝(11~13世紀)の伝説集をもとにした1巻本で27伝から成っていたが,18世紀後半に重補・新訂を加えた数種の写本によって伝わり,1771年のキム・ミエン・ムオイ(金冕韎(きんべんまい))の校本では35伝,74年のチュー・カット(諸葛(しよかつ))の新訂本は4巻で41伝を収めている。もとの27編の伝説は,神格化した歴史上の実在の人物の所伝である〈歴代帝王〉6伝と〈歴代輔臣〉11伝に,〈灝気英霊〉と題する土地神に関する神話10伝を加えたもので,それぞれの神格の功績を述べた伝記体で書かれており,チャン朝期に献ぜられた称号を掲げている。チャン朝に成った説話集《嶺南摭怪(れいなんせきかい)》の内容と重複する話が少なくない。伝本の序に編者の官職が守大蔵書火正掌中品奉御安暹路転運使とあるが,宮廷の書庫の管理に任じられていたらしいこと以外は不明である。
執筆者:川本 邦衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報