日本大百科全書(ニッポニカ) 「通詞」の意味・わかりやすい解説
通詞
つうじ
通事とも書く。鎖国時代に長崎でオランダ人・中国人との貿易・渉外事務を担当した通訳官兼商務官。オランダ語の通訳を阿蘭陀(オランダ)通詞、中国語の通訳を唐(とう)通事とよぶ。長崎奉行(ぶぎょう)の配下に置かれ、それぞれ出島(でじま)の阿蘭陀通詞会所(かいしょ)と唐人屋敷内の唐通事会所で執務した。定員は一定せず、江戸時代末には、ともに百数十名を数え、大(おお)通詞(事)、小(こ)通詞(事)、稽古(けいこ)通詞(事)など職階制を構成していた。通詞(事)は一般にその職務を家業として代々相伝するものが多く、唐通事には亡命帰化人の子孫も多く、漢学の教養をもって尊敬された者も少なくない。阿蘭陀通詞が多年伝習し蓄積したオランダ語の知識は、鎖国制下日本の西欧文化受容に大きな役割を果たし、彼らのなかからも吉雄耕牛(よしおこうぎゅう)、本木(もとき)昌栄、志筑忠雄(しづきただお)(中野柳圃(りゅうほ))、馬場佐十郎(さじゅうろう)など優れた科学者や語学者が輩出し、通詞出身者で幕末維新の激動期に重要な役割を果たした者も少なくない。
[加藤榮一]