化学辞典 第2版 の解説
配位子場安定化エネルギー
ハイイシバアンテイカエネルギー
ligand field stabilization energy
金属錯体中で遷移金属原子のd軌道は,配位子場によって分裂する.電子を等しく5個のd軌道に配置したときと,分裂したd軌道に配置したときの軌道エネルギーの差を配位子場安定化エネルギーという.たとえば,八面体型錯体で配位子場分裂エネルギーを Δo とすると,5個のd軌道は,エネルギー-2Δo/5をもつ三重に縮重した軌道(t2g)と,エネルギー3Δo/5をもつ二重に縮重した軌道(eg)に分裂する.軌道(t2g)に2個の電子が入る場合,配位子場安定化エネルギーは
である.すなわち,配位子場分裂がないときと比べ,4Δo/5だけエネルギーが安定化する.このエネルギーの大きさは,化学変化に要するエネルギーと比較して小さいが,しかし,無視できないオーダーであり,遷移金属錯体の熱力学的性質に影響を及ぼす.たとえば,Ca2+ から Zn2+ に至る水和エネルギーは,原子番号順にスムーズに増加するのではなく,Cr2+,Ni2+ のところで極大となる.これは,d0,d5,d10(これらは5個のd軌道に等しく電子が配置され,配位子場安定化エネルギーが0)を結ぶ曲線に,d電子数に応じた配位子場安定化エネルギーが加えられることによる.また,Cr3+,Co3+ の置換不活性など,反応速度についても配位子場安定化エネルギーとの関係が指摘されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報