翻訳|order
建築の構築的体系およびその秩序。後には特に,古典建築様式における円柱の形式とそれに付随する構成の比例体系を指すようになる。古代ギリシア思想においては,あらゆる自然の有機体と同様に,建築も自然の法則に従い,あるいはそれを模倣すべきものであった(アリストテレスのいう〈ミメーシス〉)。したがって建築の各部は,人体がそうであるように,それぞれが独自の形態と役割を保ちつつ,調和(シュンメトリア)のとれた全体を構成しなければならず,そのためには各部相互の関係,特に寸法的比例(プロポーション,エウリュトミア)が重要であると考えられた。彼らは建築の構成要素の中でも特に円柱を重視し,その柱身基部の半径を1単位とし,その倍数を用いて柱の高さや柱間寸法,その他各部の寸法を定めるという,ちょうど日本における木割術のような方式を創り出した。ギリシアの円柱形式には,古い木造建築時代の形をとどめるといわれる重厚なドリス式doric order,小アジア起源の優雅なイオニア式ionic order,前5世紀ころに現れた繊細華麗なコリント式corinthian orderの3種があり,それぞれに特徴的な柱頭(キャピタル)と装飾細部をもっていた。ギリシア人はこれらそれぞれの性格に見合った寸法比例を,さまざまな実験を経ながら定着させていき,前4世紀ころまでには,円柱の形式と柱径,それに柱間数を定めさえすれば,ほとんど自動的に神殿全体の形が構想できるほどになった。もとよりこれらは完全に固定したわけではなく,地方ごとに少なからぬ差異もあったが,ある種の規範(カノン)が存在するという共通の認識があった(ギリシア美術[建築])。これらは古代ローマにも伝えられ,ローマ人はそこにさらに,エトルリア起源の簡素なトスカナ式tuscan order,イオニア式とコリント式を複合した豪華なコンポジット式composite orderの二つを加え,またさきの3形式にも柱台を加えたり細部装飾を変更したりするなどの修正を加えた。しかしローマ人は前2世紀ころからコンクリートを建築素材として用い,ギリシアのような柱-楣の構造ではなく,壁を主とした一体構造に向かい始めたため,円柱は本来の構造的意味を失い,添え柱やピラスター(付け柱)として壁を縁取る装飾的要素に変質していく。しかしローマ人にとってオーダーは,本来固有の形をもたないコンクリートの塊に建築的秩序を与える手段として重視され,引き続きさまざまな工夫が加えられた。これらの体系に関しては,前1世紀のウィトルウィウスの《建築十書》が唯一の典拠であるが,彼にあってはこれらはまだ,彼のあげる建築の要件の一つ〈オルディナティオordinatio〉とは直接に結びつけられておらず,その比例関係も固定的なものではなかった。これらを〈オーダー〉の名のもとに建築の最高の規範にまで高めたのは,L.B.アルベルティ以後のルネサンス建築家たちであった。アルベルティの《建築論》(1483)ではまだオーダーの名称はなく,またトスカナ式をドリス式と同一視して円柱を4種としているが,比例はより厳密に,ピタゴラス的な調和平均の比例体系によって,建物全体にゆきわたるものとして定められていた。オーダーの語を初めて円柱形式と結びつけ,〈五つのオーダー〉としたのは,セルリオの《建築の一般規準》(第4巻,1537)であったと見られる。これがさらにビニョーラにより洗練を加えられ,パラディオの《建築四書》(1570)にいたって実用的な原理として定着した。これ以後オーダーは,古典的建築教程の中心テーマとして権威づけられていくが,18世紀の新古典主義の理論家たちは,ローマ的なピラスターのような用法を排し,古代ギリシア風の構造的実体を伴う円柱形式の復活を主張し,古代ギリシアの神殿,なかでもアテナイのパルテノンをその最も完全な例として賛美し,近代の建築美学に大きな影響を与えた。建築教程の中心としてのオーダーは,19世紀半ばのゴシック・リバイバルから20世紀の近代建築運動に至る間に否定されたが,建築全体の比例調和の意味でのオーダーは生き残り,近代主義の美学の中心となっていた。特にル・コルビュジエが人体寸法に基づく寸法体系モデュロールを唱えたり,建築の工業化・標準化を進める規格寸法の体系が一般にモデュールの名で呼ばれているのは,そのあらわれと見ることができる。
→比例[建築]
執筆者:福田 晴虔
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建築用語。「柱式(ちゅうしき)」と訳される。ギリシア・ローマ建築の柱と梁(はり)の組合せの形式、その各部分と建築全体の比例率、柱頭装飾などをさす。オーダーはそれが生まれた地域、時代によって異なる。古代ギリシアにおいてはドーリス式、イオニア式、コリント式の3柱式が用いられ、ローマ時代にはこれらのギリシアの柱式のほかに、トスカナ式ならびにコンポジット式を加えた。
[前田正明]
ギリシア建築でもっとも古く、現存の建築ではオリンピアのヘラ神殿(前7世紀中葉)が知られる。柱は柱礎を欠き直接スティロバテスの上に立つ。柱身は太く、上部に向かうにしたがって細くなり、エンタシスとよばれる胴の膨らみが顕著。柱頭は浅い鉢型のエキノスと正方形の板状のアバクスからなる。梁の上のフリーズにはメトープと3条のトリグリフォスが交互に配され、メトープにしばしば浮彫りが施されている。このような形式の簡素雄勁(ゆうけい)なドーリス建築は、ドーリス人が住んだペロポネソス地方に始まり、やがて本土ならびに南イタリアに伝播(でんぱ)した。
[前田正明]
小アジアのイオニア諸地域に生まれた様式で、その特徴は全般に優美で、柱頭に二つの渦巻を組み合わせた装飾をもつ。柱身はドーリス式に比べて一段と細く柱礎をもつ。上部のフリーズはトリグリフォスがなく帯状である。
[前田正明]
紀元前5世紀に初めて現れた建築様式。全体の構造はイオニア式に類似しているが、柱頭にアカンサス葉の華麗な装飾を用い、柱身は一段と細く優美となる。ヘレニスティック期からローマ時代に著しい開花をみた。
[前田正明]
その名のとおり、イオニア式とコリント式の混合様式で、ローマ時代に考案された。イオニア式の渦巻とコリント式の葉飾りとを複雑に組み合わせた柱頭、および過剰なまでの装飾が特徴で、3世紀以降、ローマの記念門その他の大建築などに採用されている。
[前田正明]
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…学名は種名について与えられるだけでなく,すべての階級の生物名について定められるものである。植物では,目order以下の階級のすべての分類群については,一定の条件の下で先取権priorityが認められており,規約に合うように公表された最も古い学名を正名correct nameとすることになっている。一方,動物の場合には,科family以下の階級の分類群だけに命名規約が適用されるが,ふつうはより高次の分類群についても規約を準用している。…
…命名については国際動物(植物)命名規約によって方法が規定されている。 分類群の階級としては,種speciesを基本的な単位として,それより上級に属genus,科family,目order,綱class,門division(動物ではphylum)などが設けられ,それらの間にもいくつかの階級を設けてもよいことになっている。種以下の分類群としては,動物の命名規約では,亜種subspeciesだけが認められているが,植物の場合には,亜種のほかに変種variety,亜変種,品種などの階級も認められている。…
…初期の神殿の壁は日乾煉瓦で造られるのが普通だったから,周柱廊は土壁を保護するため深く突き出した軒を支えることから発生したのであろう(図2)。
[オーダーの3形式]
石造建築としての神殿遺構は前6世紀から見られる。それらは普通は3段の階段状基壇をもち,縦のフルーティング(溝彫)をつけた円柱を立てる。…
…欧米では〈建築家〉をはじめとするさまざまな職能ごとに異なる教程があてられてきた経緯があり,また職能教育の教程をただちにひとつの学術分野として認定するとは限らず,この日本語に相当する呼称は見当たらない。
[古代]
建築が単なる職人的技能だけではなく,一定の学問的素養を必要とするという考えは,すでに古代にも存在し,ウィトルウィウスの《建築十書》(前30ころ)には,建築家は哲学から法律,歴史,天文学,軍事技術などのさまざまな知識に通じていなければならず,そのうえでオーダーをはじめとするいくつかの建築固有の要件を学ばなければならないと記されている。しかしウィトルウィウスの知識は断片的で,ほとんど理論的体系化はなされておらず,オーダーなどの概念も具体的内容がなく,総じて当時の雑多な建築知識の集成の域を出なかった。…
…またアケメネス朝ペルシアでは,2頭の牡牛などの前軀を背中合せにし,その間に梁をかけ渡すようにした特色のある柱頭を用いた。とくに著名なのは古代ギリシアのドリス式,イオニア式,コリント式の各オーダーの柱頭で,ローマ時代にはトスカナ式とコンポジット式がこれに加えられた。ローマ末期には四隅に動物の上半身像を突出させたプロトマイprotomai柱頭が現れたが,6世紀にビザンティンで考案された籠形柱頭は,コリント式を原型とする柱頭の表面にレース状に繊細な唐草を籠編みのように彫り出したものである。…
… すでにエジプト建築において,角柱や多角形の柱以外に,アシやハスなどの細い植物を束ねた形式の柱,彫像を組み合わせた柱(オシリス柱,ハトホル柱)など,彫刻的な変化をもつ柱が現れ,以後,柱は建築表現の主要な部分となる。ギリシア・ローマでは,円柱の形状と各部の比例が研究され,オーダーが生み出された。ギリシア建築のオーダーには,柱頭が皿形をしたドリス式,渦巻形装飾(ボリュート)をもつイオニア式,アカンサス葉装飾をもつコリント式の3種があり,ローマではさらに,柱身に縦溝(フルーティング)をもたないが他はドリス式に類似したトスカナ式,そしてイオニア式とコリント式の柱頭を合体させた形状のコンポジット式が加えられた。…
…円柱はそのまま人体になぞらえられ,たとえばドリス式円柱は男性の人体であり,その高さは直径の6倍とするのが望ましく,イオニア式は女性で,直径の8倍の高さがよいとされた。そして円柱直径の1/2を1モデュールと呼び,各部寸法をすべてこれの倍数値で表す方式が,いわゆる〈オーダー〉の体系の根幹となっていた。古典建築の最初の理論家,古代ローマのウィトルウィウスは,こうした比例の体系こそが建築を科学たらしめるものであると信じていたが,同時に,ピタゴラスやプラトンを引用しながら,6という数の神秘性を強調しており,比例の観念と神秘主義,象徴主義との結びつきの深さをおもわせる。…
…アウグストゥス時代の建築家ウィトルウィウスの《建築十書》は当時のギリシア,すなわちヘレニズム時代の建築理論にもとづいて書かれたもので,多くのギリシア建築家の著作が引用されている。ヘレニズムの影響は大理石の切石積みや,ドリス式,イオニア式,コリント式などギリシア建築に用いられたオーダー(柱や柱の上にのる軒までの部材の形式と組合せ)の採用に最も明らかに見られる。ローマ人はこのほかにもエトルリア起源の簡素なオーダーをトスカナ式として受け継いでいる。…
※「オーダー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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