化学辞典 第2版 「電荷移動スペクトル」の解説
電荷移動スペクトル
デンカイドウスペクトル
charge-transfer spectrum
物質が光を吸収する際に電荷の移動を伴う遷移によるスペクトルをいう.この名称は,R.S. Mulliken(マリケン)が分子の紫外部の吸収帯を二つに分類したときに,はじめて用いられた.その分類の一つはリュードベリ帯であり,もう一つは,分子中の原子間を電子が移動することによって生じる電荷移動スペクトルである.これは分子内における電荷移動によるものであるが,さらによく知られているのは,電荷移動錯体に特徴的な分子間の電荷移動スペクトルであって,非結合構造 ΨDA と電荷移動構造 ΨD+-A- との共鳴によって生じた基底状態
ΨN = aΨDA + bΨD+-A-
と,励起状態
ΨE = b′ ΨDA - a′ ΨD+-A-
との間に起こる遷移にもとづくスペクトルである.この吸収帯は近紫外から可視の領域に出現することが多く,しばしば電荷移動錯体の着色の原因となる.また,これ以外に金属錯塩においても,中心金属と配位子間に同じ原因にもとづく吸収帯が見いだされており,やはり電荷移動スペクトルとよばれている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報