電荷移動錯体(読み)デンカイドウサクタイ(英語表記)charge transfer complex

デジタル大辞泉 「電荷移動錯体」の意味・読み・例文・類語

でんかいどう‐さくたい【電荷移動錯体】

電子が不足した官能基をもつ電子受容体と、電子が富む官能基をもつ電子供与体で構成され、両者の間で電荷移動が生じる錯体総称EDA錯体

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「電荷移動錯体」の意味・わかりやすい解説

電荷移動錯体
でんかいどうさくたい
charge transfer complex

分子錯体ともいう。化学結合には電子対の供与が必要なもののほかに、電子が不足している官能基をもった化合物と、電子に富んだ官能基をもった化合物との間に、電荷の移動が生じて、電荷移動錯体とよばれる化合物ができることがある。電子を押し出す官能基にはメチル基-CH3、電子を受け入れやすい官能基にはニトロ基-NO2があげられるが、これらの官能基をそれぞれもつ両化合物は、電荷移動錯体をつくる。ここでメチル基をもつ化合物は電子の不足している塩基、ニトロ基をもつものは酸ともみなせるので、酸・塩基の結合とみることもできる。

 電荷移動錯体は、1950年代に、有機化合物にあっても電導性をもつものが発見されてから、その存在が理論的に追究された。たとえば、TTFテトラチアフルバレン)とTCNQテトラシアノキノジメタン)とが交互に配列してできた結晶は、室温では10-3Ω・cmの電気抵抗しか示さないが、温度の上昇とともに抵抗が増加する。また結晶の方向によって抵抗が1000倍も異なる。これらの電導性は分子間のπ(パイ)電子相互作用による。同様にして、共役二重結合をもつポリアセチレンにも電導性がある。なお、2000年(平成12)に白川英樹がこれらの研究業績ノーベル化学賞を受賞した。

[下沢 隆]


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化学辞典 第2版 「電荷移動錯体」の解説

電荷移動錯体
デンカイドウサクタイ
charge-transfer complex

電子移動錯体ともいう.電子供与体Dから電子受容体Aに電子が移動して結合が生じた状態(電荷移動状態D- A)と,非結合状態D…Aとの共鳴により安定化された分子化合物をいう.ベンゼンなどの芳香族炭化水素Dとヨウ素A,アミン類やエーテルDとヨウ素Aなど多くの例が知られている.この錯体が形成されると,成分分子には認められない新しい吸収帯(電荷移動スペクトル)を生じる.たとえば,ベンゼン-ヨウ素錯体では,最大吸収波長297 nm に電荷移動吸収帯が観測される.結合の強さ,分子間の電子移動の大きさはDとAとの組合せによって広い範囲で変化する.たとえば,ベンゼン-ヨウ素系では結合エネルギー7.1 kJ mol-1,電子移動3% であるが,トリエタノールアミン-ヨウ素系ではそれぞれ50.2 kJ mol-1,50% である.

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改訂新版 世界大百科事典 「電荷移動錯体」の意味・わかりやすい解説

電荷移動錯体 (でんかいどうさくたい)
charge-transfer complex

電荷移動によってできる分子化合物の総称で,とくに固体や液体状態の化合物を呼ぶ場合が多い。水素結合による氷や水,ヒドロキノンとベンゾキノンからできる黒緑色のセミキノン固体はその具体例である。この錯体のなかには,組成成分にはない導電性や常磁性を示す化合物がある。有機半導体や有機超伝導体の多くは電荷移動錯体である。この錯体は乾式複写機のフォトレセプターとしての用途が開けている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電荷移動錯体」の意味・わかりやすい解説

電荷移動錯体
でんかいどうさくたい
charge transfer complex

チャージトランスファーコンプレックスともいう。分子間の電荷移動によって結合力を生じた分子化合物をいう。この分子化合物は電子を与える側の電子供与体と電子を受入れる側の電子受容体から成っており,化合物に特有の発色現象を伴う。電荷移動錯体の生成と発色現象は R. S.マリケンにより理論的に説明された。電荷移動により,不対電子を生じるものでは物性的に興味ある性質を示すことが多い。

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世界大百科事典(旧版)内の電荷移動錯体の言及

【錯体】より

…さらに,錯塩等も錯体中に含めることがあり,こうすると塩,分子,イオン等の区別を考えずに使える利点がある。なおベンゼンのような電子供与体が電荷移動力によってヨウ素のような電子受容体と結合してできるものは電荷移動錯体といい,広く定義した錯体の中に入るが,性質等がまったく異なるので別に取り扱われる。
[錯体研究の歴史]
 1704年最初に発見された錯体は鉄(II)と鉄(III)のシアノ錯体である顔料のベルリン青であるといわれている。…

※「電荷移動錯体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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