電気とほとんど同義語であるが,個々の物体や粒子などがもつ電気を指すときには電荷ということばを用いる。電気には正負の2種類があるので,電荷の量(電気量)は正負の実数で表され,その単位はクーロン(C)である。導線に1Aの電流が流れるとき,1秒間に通過する電気量が1Cである。
経験によれば,あらゆる物理的,または化学的過程において,それに関与する物体,粒子などの電荷の総和(代数和)は一定に保たれ,過程の前後で増減することはない。これを電荷の保存則と呼ぶ。この事実はすでに18世紀には認識され,これから電荷を不生不滅の流体とみなす仮説が生まれた。しかし現代の物理学では,電荷自身を物質的な実体とはみなさず,物質を構成するミクロの粒子がもつ属性とみる。ミクロの粒子が電場,磁場から力を受けたり,逆に電場,磁場をつくったりすることを,粒子と電磁場の相互作用と呼ぶが,粒子がもつ電荷の量は,この相互作用の強さを表している。マクロの物体がもつ電荷は,それを構成するミクロの粒子の電荷の総和である。
ところで何をミクロの粒子と見るかは考えている現象により異なるが,通常の化学的,あるいは電気的な過程は,負電荷をもつ電子と正電荷をもつ原子核から物質が構成されると見れば説明できる。電子は電荷-eをもち,原子核は,その原子番号をZとすれば,電荷Zeをもつ。ここでeは電気素量と呼ばれる電気量で,e≒1.6×10⁻19Cである。さらに原子核反応などの研究から,原子番号Z,質量数Aの原子核は,+eの電荷をもつ陽子Z個と,電荷をもたない中性子A-Z個からなることがわかる。こうして物質の正負の電荷の根源は,それぞれ陽子および電子に帰着される。上述のような過程を見る限りでは,電子や陽子自身が生成したり消滅したりすることはないので,電荷の保存則が成り立つのは自明であるように思われる。しかし素粒子が関与する現象まで考えると,電荷の保存則と粒子数の保存則は別物であることがわかる。すなわち素粒子反応や素粒子の崩壊などの過程では,粒子の生成・消滅はごくふつうに起こるが,その場合でも電荷の保存則は例外なく成り立つ。例えば中性子のβ崩壊は,中性子─→陽子+電子+反ニュートリノという過程であり,中性子と反ニュートリノは中性であるから,過程の前後の全電荷は0で,電荷は保存される。電荷の保存則は,自然界で成立するもっとも基本的な法則の一つと考えられている。
気体,液体,固体などのマクロの物質の電気的現象は,上述のように電子と原子核がもつ電荷によって起こる。しかし物質中の電子と原子核は,ばらばらの状態で存在するのではなく,いくつかずつ結合して中性の原子・分子をつくっている。そしてごく一部の原子・分子だけが電子とイオンに分離し,これがマクロの電荷として現れる。物質中の電流は,この電子やイオンの流れである。分離した電子,またはイオンに帰因する電荷を真電荷と呼ぶ。
しかし,マクロに現れる電荷は真電荷だけではない。多くの分子の内部は,一部分は正に,一部分は負に帯電している。例えば塩化水素HClの分子では,H原子核の付近は正に,Cl原子核の付近は負に帯電している。これは分子内の電子の分布に偏りがあるためである。分子内の正負の電荷分布にずれがあることを,分子が電気双極子になっているという。ふつうの状態では,この電気双極子は物質中でばらばらの向きを向くため,多数の電気双極子の電荷が互いに打ち消し合い,マクロに見れば電荷は現れない。しかし物質を電場の中におくと,かなりの双極子が電場の方向を向く。多数の双極子が同一方向を向いても,物質の内部では双極子の電荷は打ち消し合うが,物質の表面では打消しは不完全で,その結果表面にマクロの電荷が現れる。
以上,分子の双極子について述べたが,電場の中では原子内の負電荷(電子)の分布もずれて,原子も双極子になり,これも上述の表面電荷に寄与する。このように,原子・分子が電気双極子であることから生ずる表面電荷を分極電荷と呼ぶ。原子・分子が電子とイオンに分離したわけではないので,分極電荷は物質からとり出すことはできない。分極電荷は誘電体において基本的な役割をもつ。
→電気
執筆者:加藤 正昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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電磁気現象を引き起こす源となる物理的実体で、その電気量は電磁場から受ける作用の大きさおよび発生させる電磁場の強さを規定する物理量で、物質を特徴づける量である。電子の研究によって電荷の素量(電子1個のもつ電気量の絶対値。電気素量)eが発見され、その大きさは
e=1.602×10-19クーロン
である。陽子の電荷は+e、電子の電荷は-eである。現在観測される限り、この素量の整数倍以外の電荷がみいだされたことはない。素粒子の基本構成要素であるクォークの電荷は、素量の2/3、1/3倍であるが、このような分数電荷をもつクォークが単独でみいだされたことはなく、クォークはハドロン内部に閉じ込められていると考えられている。電荷ということばで電気量を表現することもあるが、これについては厳密な保存則が成り立っている。すなわち電荷は自然になくなることも、増えることもない。これを電荷の保存則という。素粒子の世界では荷電粒子の生成消滅があるが、+eの粒子ができれば同時に-eの粒子ができ、電荷の代数和はつねに保存される。電荷が空間の一点に集中しているとき、点電荷という。
[小川修三・植松恒夫]
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電荷は電気の量を示す.電荷の大きさは電荷どうしが及ぼし合う力の大きさによって定義される.たとえば,真空中に相等しい二つの点電荷Qを距離rだけ隔てて置いたときに作用する力の大きさFは,クーロンの法則により,
の式で与えられるが,cgs静電単位(esu)ではr = 1 cm でF = 1 dyn になるような電荷Qを単位とし,実用単位では静電単位の2.998×109 倍をとり,これを1クーロン(C)という.また,電荷のMKSA単位およびSI単位でもクーロンを採用する.実在するすべての電荷の大きさは電子1個のもつ電荷の大きさ,
e = 4.8033×10-10 esu = 1.6022 × 10-19 C
の整数倍であり,電子に対して引力を示すか斥力を示すかによって,正電荷あるいは負電荷といわれる.電気現象(静電的および電磁的)は,すべて電荷の存在およびその運動によって起こされる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…これに対する解答は,1785‐89年にフランスのC.A.deクーロンによって,逆2乗法則として与えられた(クーロンの法則)。これ以後,与えられた電荷の分布から,その周囲に及ぼされる電気力を計算することが大きな課題となった。この方面でとくに大きな成果をあげたのはS.D.ポアソンである。…
※「電荷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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