内科学 第10版 の解説
顔面・肩甲・上腕型筋ジストロフィ(筋ジストロフィ)
原因・概念
遺伝性筋疾患のなかで,DMD,筋強直性ジストロフィについで多い.常染色体優性の遺伝形式をとるが,孤発例として現れる例も多い.大部分の家系は,4 q 35-qterにリンクする(FSHD 1 A)である.
重症度,発症年齢の幅が大きいため,病像は多様であるが共通する特徴として,①顔面・肩甲・上腕部,進行すると足背屈筋および腰帯部に及ぶ筋力低下・筋萎縮,②個々の筋で筋力低下・筋萎縮の程度に著明な左右差がある,③外眼筋,呼吸筋罹患がない,があげられる.
疫学
実態は不明であるが,最低でも有病率は2人/10万人とする報告がある.約1/3は新たな変異による.
病態生理
FSHD 1 Aでは,第4染色体のサブテロメア領域に3.3 kbの繰り返し配列が存在する.一般人口ではこの繰り返し数は,10から100以上だが,患者では10以下である.この異常が,本症の発症にどのように関与しているかは現時点ではまだ明らかにされていない.
病理
筋生検の病理所見は肢帯型筋ジストロフィに似るが,症例によって幅があり,活発な壊死,再生像をみるものから,ほとんど変化のみられない例すらある.
臨床症状
発症年齢はほぼ全年代に及ぶ.典型例では10歳代後半から30歳代で,顔面筋の筋力低下か,上肢挙上困難で発症する.
上肢帯の筋力低下のため,翼状肩甲と,代償性に上部僧帽筋の肥大をみる.顔面筋の筋力低下は第Ⅶ脳神経領域に限られる.このため,閉眼不全(兎眼)や,笑うときには口角が上がらない横笑いが現れ,特徴的なミオパチー顔貌となる.その他の症状として,網膜血管異常,第Ⅷ脳神経障害がある.若年発症例では,てんかん発作,軽度知能低下をみる場合もある.
進行すれば,筋力低下は体幹や下肢にも及ぶ.進行は緩徐ではあるが,歩行不能となり,車椅子を必要とすることもけっしてまれではない.
検査成績
血清CK値の上昇は中等度までにとどまる.確定診断は,前述の繰り返し配列の短縮を,サザンブロット上で制限酵素断片の短縮としてとらえることによる.[清水輝夫]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報