改訂新版 世界大百科事典 「食塩電解」の意味・わかりやすい解説
食塩電解 (しょくえんでんかい)
chloro-alkali electrolysis
食塩水を電気分解して水酸化ナトリウムNaOHと塩素Cl2を製造する工業的方法。隔膜法,水銀法,イオン交換膜法の三つの方法がある。
隔膜法
アスベスト隔膜を用いて仕切った2室からなる電解槽の1室にDSE陽極(チタンTi板の表面に酸化ルテニウム(Ⅳ)RuO2などの電極触媒を付けた電極。寸法安定電極dimentionally stable electrodeともいう)を置き,他室に鉄網陰極を設ける。精製した食塩水は陽極室に供給し,隔膜を通って陰極室に流れるようになっている。通電すると陽極からCl2が発生し,陰極からは水素H2が発生する。H2の発生は陰極でのOH⁻イオンの生成を意味する。Na⁺イオンは陽極室から陰極室のほうに泳動するが,陰極で放電せず陰極付近に集まる。したがって陰極付近ではNaOHの濃度が高くなる。NaOHとNaClの混合水溶液は濃縮し,溶解度の差を利用してNaOHとNaClを分離する。
水銀法
陰極に水銀,陽極にDSE陽極を用いて無隔膜で電気分解を行うと,水銀は水素過電圧が大きいので水素発生は起こらず,Na⁺イオンの放電が起こってアマルガムを生成する。ナトリウムアマルガムは解こう(汞)槽と呼ばれる別室に導いて水,黒鉛と接触させると,アマルガムが分解してNaOHとH2を生成する。この操作を解こう(汞)という。この方法は製品の純度,生産性などの点からみて工業プロセスとしては優れているが,水銀を多量に使うことから日本では廃止の方向に向かっている。
イオン交換膜法
陽イオン交換膜で仕切った2室からなる電解槽の1室にDSE陽極,他室に鉄網陰極を設け,陽極室には食塩水が流され,陰極室にはNaOH水溶液が流される。電気分解により,陽極室ではCl2が発生し,陰極室ではH2が発生,OH⁻イオンが生成する。また陽イオン交換膜を通ってNa⁺イオンが陽極室から陰極室へ移動するので,陰極室ではNaOHの濃度が増し,陽極室ではNaClの濃度が減少する。イオン交換膜法は最新の方法で,製品の純度がよく,所要エネルギー量が少なく水銀を使用しないので,今後広く用いられるようになると思われる。
→水酸化ナトリウム
執筆者:笛木 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報