電池系に電流を流して電気分解を進行させるには,電池を構成している各電極系の電極電位を平衡時の値(平衡電極電位)からずらさなければならない。すなわち,電極系の平衡を破らねばならない。電流Iが流れているときの電極電位と平衡電極電位との差を,その電流における過電圧という。電極系の平衡を破るには次のような現象に打ち勝つだけのエネルギーを加える必要があり,それらの原因に応じて過電圧を次のように分類することができる。(1)電極反応の活性化エネルギー(活性化過電圧),(2)反応進行に伴って電極面に生ずる反応関与物質の濃度変化(濃度過電圧),(3)反応の結果として電極面に皮膜の生成などがあれば,皮膜の電気抵抗Rによるオーム降下(IRに等しい)など(抵抗過電圧)。これらの過電圧は,電極反応の種類,電極の材質や表面状態,電流密度,温度,圧力などで変化する。とくに活性化過電圧ηと電流密度jとの関係は次式に従うことが多い。
η=a+b log|j|(a,bは定数)
この関係は,水素の電解発生に伴う過電圧(水素過電圧)に対してターフェルJ.Tafelが提出(1905)したもので,ターフェルの式Tafel's equationとして知られている。水溶液を金属電極で電解して水素ガスを発生させるのに必要な水素過電圧は銅Cu,カドミウムCd,スズSn,鉛Pb,亜鉛Zn,水銀Hgの順に大きくなる。また,水溶液を電解して金属電極から酸素ガスを発生させるときの酸素過電圧の大きさは,水素過電圧の場合とだいたい逆の傾向になる。過電圧の測定および解析は,電極反応の研究において最も基本的な役割を果たすのみならず,水の電気分解や種々の物質の電解析出や電解合成などの応用面でも重要な意味をもつ。
執筆者:玉虫 伶太
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電極反応が進行しているとき,電極電位とその反応の可逆電位の差を過電圧とよび,通常ηで表す.過電圧はアノード反応について正,カソード反応について負にとる.過電圧は電流を流す駆動力であるが,逆の見方をすれば,電流の界面通過により電極がηだけ分極されたともいえる.電流密度と過電圧の関係を表す式としてターフェルの式が古くから知られている.同じ電流密度で比較して過電圧が大きいことは反応速度が遅いことに対応するので,電極反応速度が遅い(あるいは交換電流密度が小さい)場合に,過電圧の大きい反応,あるいは電極という表現も使われる.とくに水素電極反応では,交換電流密度のかわりに水素過電圧で記述されることが多い.電極反応は,溶液内拡散,電荷移動過程(放電過程),表面反応などの素反応から成り立っているが,その各素反応に帰因する過電圧を拡散過電圧,電荷移動過電圧(活性化過電圧),反応過電圧などとよぶ.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
電気分解を行っているときの正(陽)極または負(陰)極の電位が、それぞれの極が平衡にあるときの電位に比べて、どれだけ正または負になっているか、すなわち、平衡電位に比べてどれだけ余分に電位がかかっているかの大きさを過電圧という。
過電圧は、それの原因となる分極の種類により、活性化過電圧と濃度過電圧に分けられる。適当な電気分解装置を用いて、片方だけの極の活性化過電圧ηaと流れる電流iとの関係を調べると、多くの場合、ターフェルJulius Tafel(1862―1918)の関係式ηa=a-blogiが成立する。各種金属陰極上、水素発生時の過電圧を水素過電圧、陽極上、酸素発生時の過電圧を酸素過電圧とよぶ。
[戸田源治郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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…送配電線に発生する,正常な運転電圧以外の電圧をいう。運転電圧より高いものと低いものがあるが,高いものを過電圧と呼んでいる。過電圧には大別して雷サージ,開閉サージ,短時間過電圧の3種類がある。…
※「過電圧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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