改訂新版 世界大百科事典 「高分子触媒」の意味・わかりやすい解説
高分子触媒 (こうぶんししょくばい)
polymer catalyst
触媒作用をもつ高分子。触媒は化学反応のなかだちをする物質であるが,これが高分子(巨大分子)であることによって特徴があらわれる。第1に,触媒作用をするのはある種の原子団や金属イオンなどであるが,高分子はこのような原子団や金属イオンを多数結合させることができるので,これらの原子団の間,原子団とイオンの間等に相互作用が生じやすく,これらの原子団やイオンがそれぞれ単独で働く場合とは異なる触媒作用をする可能性がある。またその触媒により反応する物質(基質)と高分子との相互作用も触媒作用に大きい影響を及ぼすことがある。生化学反応の触媒である酵素タンパク質ではこのような高分子触媒の特徴がよくあらわれており,温和な条件で無駄のない触媒作用が発揮されている。この特徴をもつ合成高分子触媒の研究も行われている。第2に,高分子物質の溶解性が低いことを利用して,すぐれた作用を示すことがわかっている触媒を高分子に結合,あるいは担持させると,反応生成物を触媒から分離し,また触媒を回収,再利用することが容易になるので,触媒を用いる化学工業のプロセスにとって有意義である。有機高分子化合物は多様であるので触媒を結合あるいは担持させる方法も多様で便利である。この高分子担持触媒を用いる化学反応は実際に工業化されている。
執筆者:井上 祥平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報