高分子(読み)コウブンシ(英語表記)high molecular compound

デジタル大辞泉 「高分子」の意味・読み・例文・類語

こう‐ぶんし〔カウ‐〕【高分子】

分子量の非常に大きな分子。ふつう、分子量1万以上のものをいう。

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精選版 日本国語大辞典 「高分子」の意味・読み・例文・類語

こう‐ぶんしカウ‥【高分子】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 物理学、化学で、分子量がひじょうに大きな分子をいう。巨大分子
    1. [初出の実例]「高分子学会の開かれている成律大学というのは」(出典:氾濫(1956‐58)〈伊藤整〉一)
  3. こうぶんしかがく(高分子化学)」の略。
    1. [初出の実例]「ぼくが同じ高分子の仕事にたずさわっている人間であることに」(出典:他人の顔(1964)〈安部公房〉黒いノート)

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改訂新版 世界大百科事典 「高分子」の意味・わかりやすい解説

高分子 (こうぶんし)
high molecular compound

巨大な分子からなる物質をいう。分子の大きさは分子量によって表されるが,分子量の大小を高分子量,低分子量のように表現することから,高分子という言葉が由来している。高分子に対する言葉は低分子であるが,分子量に関して高分子と低分子の間にはっきりした境界があるわけではない。しかし互いに類似の化学構造の分子からなる物質でも,分子量が1000程度のものと1万以上のものとではとくに物理的性質に大きな差異があり,一般には分子量が数千以上のものを高分子と呼ぶ。天然に存在する高分子にはセルロースタンパク質,核酸などがあり,それぞれ生物にとって必須の役割を担っている。そのなかでもセルロースは古くから人類によって被服の材料などとして利用されてきた。人工的につくられる合成高分子には多くの種類があり,繊維,合成樹脂(プラスチック),ゴムなど多様な用途がある。

高分子は,一般には比較的単純な構造からなる構成単位が互いに多数つながってできた線状あるいは鎖状の長大な構造をもっている。天然高分子の例としてセルロースとタンパク質をあげる。セルロースはグルコースの単位が1万程度線状に結合した構造である。タンパク質はアミノ酸の単位が多数結合した構造をもっている。タンパク質を構成するアミノ酸は約20種類あるので,タンパク質の構成単位は同一ではないが,その骨格は同じ構造単位の繰返しからなる。

次に合成高分子の例をいくつかあげる。



これらの高分子化合物は,それぞれの構成単位に相当する低分子化合物が互いに結合する,重合反応によって生成したポリマー(重合体)であるとみることができる。その意味で高分子のことをポリマーpolymerと通称することも多い。

 高分子を特徴づけるのはその分子量の大きさである。純粋なブドウ糖のような低分子の有機化合物は一定の構造と分子量をもった分子だけからなるが,セルロースでは,各分子の構成単位の構造は同一でも,その分子量,すなわち構成単位の数は必ずしも同一ではない。合成高分子においても同様であり,一般に高分子物質は分子量についてはそろっていなくて,ある分布をもつ。ふつう用いられる分子量はその平均値(平均分子量)である。ただし,核酸や酵素のタンパク質では分子量はそろっている。

 高分子の1個の分子がとっている形は,必ずしも糸をぴんと張ったように直線状になっているわけではない。分子を構成している各原子はある決まった距離と角度とでつながっているが,その結合のまわりに回転が起こりうるので,高分子は多様な形態(コンフォーメーションconformation)をとることができる(図1)。

われわれが実際に見る高分子物質は1個の分子ではなく多数の分子が集合してできた固体である。低分子の有機化合物の固体はふつう結晶であるが,高分子化合物は一般には結晶になりにくい。高分子でも分子構造によっては比較的結晶になりやすいものもあるが,固体の全体が結晶となることは少なく,結晶部分と非晶質(無定形あるいはガラス状)の部分が混在していることが多い。結晶部分では伸びた形の分子が規則正しく配列しており,非晶質部分では分子の形と配列は無秩序である(図2)。結晶部分と非晶質部分との割合は高分子の分子構造によるだけでなく,その固体のつくり方によっても大きい影響を受け,このことは高分子の固体の性質に反映しており,繊維,プラスチック,ゴムなどの高分子材料の実用的性質を支配する要因の一つとなっている。

高分子物質の固体の性質には低分子有機化合物とは異なる特徴がいくつかある。それは,前述したように,主として高分子の固体では結晶部分と非晶質部分が混在していることによる。

高分子化合物を加熱して液体(融液)とし,温度を下げていくと部分的に結晶が生成する。このときの温度がその高分子化合物の融点である。さらに温度を下げていくと,もう一つその物質の性質に変化の起こる点が観測される(図3)。これは非晶質部分の分子の動きが凍結される温度に相当し,ガラス転移点と呼ばれる。ガラス転移点は高分子固体の性質に大きい影響を与える。これより高い温度では高分子物質はやわらかく,低い温度ではかたくなる。たとえばチューインガムのベースとして用いられる高分子化合物は,体温付近にガラス転移点をもつので口の中で柔軟になる。零下の気温でも弾性を示すタイヤ用のゴムの原料は,ガラス転移点の低い高分子である。

低分子有機化合物の結晶がかたくてもろいのに対し,高分子化合物の固体は強じんである。この性質は繊維,プラスチック,ゴムなどとしての利用の基礎となっている。物体に力をかけたときに起こる変形には弾性変形と塑性(あるいは粘性)変形とがあるが,高分子物質の固体はこれらが同時に起こる例の代表である。たとえば高分子の固体を引っ張ると瞬間的な伸びが起こる(弾性変形)。そのまま同じ力をかけておくと時間とともに伸びは増大する(塑性変形)。力をとり除くと瞬間的に伸びが減少するが,その後も時間とともに伸びの減少は進む。しかし長時間放置しても元の長さには戻らず,永久変形が残る(図4)。このように弾性,塑性の両方が同時に現れる性質を粘弾性という。この性質も高分子の固体では結晶部分と非晶質部分とが混在していることによる。高分子の固体に力をかけると,分子をつくっている原子間の結合の長さや角度が変化するがその程度は小さく,力をかけるのをやめれば元に戻る。しかし,結合のまわりの回転による分子の形態の変化はより起こりやすい。この変化も力をかけるのをやめると,一部は元に戻るが,分子が互いに動いて相対的な位置関係が変わっていくので,時間とともに伸びが変化し,また永久変形が残ることになる。

 ゴムでは,繊維やプラスチックに比べ,小さい力で引っ張っても大きく伸び,力をかけるのをやめると元に戻るのは日常経験することである。ゴムはほとんど非晶質部分だけからなり,またゴムを構成する分子の間にはところどころ橋が架かった網目構造になっている。引っ張ると,分子をつくっている結合のまわりに回転が起こり,分子の形態は大きく変化する。力をかけることによって起こるこの変化によって,分子はより秩序だった形態をとるようになる。しかし,橋架けによる網目構造のため分子が互いに位置を変えてしまうことはなく,力をかけるのをやめると,分子はより無秩序な形態をとろうとして元の形態に戻る(図5)。
ゴム状弾性

高分子物質の濃厚な溶液は,塗料,接着剤などとして目にすることができる。その特徴は粘いことである。このように高い粘性は同じ濃度の低分子物質の溶液ではみられない。溶液が流動するときには力がかかり,そのことによって高分子の形態に変化が起こり,また分子間の相対的位置関係も変化する。これらはさらに時間とともに変化する。これが粘性として観察されることになる。

化学的性質は主として1個の分子の化学構造によって決まるから,高分子化合物と,それに対応する化学構造をもつ低分子化合物との間には,一般には化学的性質の著しいちがいはないが,高分子化合物では分子間の相互作用が強いため,対応する低分子化合物よりも反応性が低いことも多い。これは高分子材料を実用するのに必要な安定性にとって重要である。溶媒に対する溶解性は,高分子と低分子とでは大きく異なる。たとえばセルロースは水に溶けないが,相当する構造をもつ低分子のグルコースは容易に溶ける。この不溶性も繊維などの高分子材料としての利用には必須の性質である。

高分子化合物は,その構成単位に相当する低分子化合物を互いに多数結合させることによってつくることができる。この反応を一般に重合反応,出発物となる低分子化合物をモノマーmonomer(単量体),生成する高分子化合物をポリマーpolymer(重合体)という。モノマーとなりうるのは,他の2個の分子と反応,結合しうる構造をもった化合物である。重合反応は二つの様式に大別される。縮合重合(重縮合)と付加重合である。

縮合重合では高分子化合物のほかに水のような低分子化合物が生成するが,付加重合では生成するのは高分子化合物だけである。高分子化合物において,分子をつくっている構成単位の数を重合度というが,縮合重合で生成する高分子の重合度は100~200程度のことが多い。一方,付加重合による高分子の重合度はずっと高く1000~1万,ときにはそれ以上である。ただし,これらの反応で生成する高分子化合物の各分子の重合度はそろっているわけではなく,ある分布をもっている。縮合重合と付加重合のほか,重付加,開環重合および付加縮合によっても高分子が生成する。
重合

重合反応をしうる低分子化合物を2種類以上混合し,同時に重合させることを共重合といい,生成物をコポリマーcopolymer(共重合体)という。たとえば付加重合反応において2種のモノマーAとBを共重合させることによって,Aからの構造単位とBからの構造単位が同じ分子に含まれた高分子化合物が生成する。この化合物は,モノマーAのみ,あるいはモノマーBのみからなる高分子化合物(単独重合体ホモポリマーhomopolymer)とは異なる性質をもっている。このため,共重合反応は,あるポリマーの性質を改良するのにしばしば用いられる。また,まったく新しい性質の高分子物質が得られることもある。たとえばエチレンプロピレンのそれぞれのホモポリマーであるポリエチレンポリプロピレンはおもにプラスチックとして用いられるが,エチレンとプロピレンの共重合体はゴムとして用いられる。
共重合

プロピレンが付加重合するとき,高分子の中のプロピレンの構造単位には左右の区別が生じる。すなわち図6に示すように,高分子の骨格をつくるC-C結合を紙面に置くと,メチル基CH3は紙面の手前に来るか後ろへ行くかのいずれかとなる。ふつうは図6-aのようなランダムな構造(アタクチックatactic構造)をとると考えられるが,1950年代の半ばに,チーグラー触媒の発見により,プロピレンを容易に重合させ,図6-bのようにメチル基がすべて同じ側に規則正しく並んだ構造(イソタクチックisotactic構造またはアイソタクチック構造)のポリマーを得ることができるようになった。このポリプロピレンは現在,合成繊維,プラスチックとして用いられている。アタクチック・ポリマーの性質はこれとはまったく異なっており,この目的には用いられない。また,メチル基が一つおきに同じ側に規則正しく並んだ構造(シンジオタクチックsyndiotactic構造)をもつプロピレンも合成できるが,実用化されていない。

天然に存在する高分子や合成高分子に化学反応を行わせることによって,出発物とは異なる構造をもつ高分子化合物をつくることができる。たとえば,

これらの反応で生成した高分子化合物は元の高分子とはまったく異なる性質を有しており,それぞれ独自の用途がある。ポリビニルアルコール(PVA)には相当するモノマー(ビニルアルコール)が構造上存在しえず,したがってPVAは別の高分子化合物から誘導することによって初めてつくることができる。

高分子の量的に大きい用途は繊維,プラスチック,ゴムで,これらはいずれも織物,容器,タイヤなどのための構造形成材料である。いずれにも天然起源のものと合成されたものとがある。紙と皮革は天然繊維とともに天然高分子の利用の代表である。繊維として用いられる高分子は,分子間の相互作用が強くて相互に規則正しい配列をしやすく,結晶をつくりやすいような分子構造をもつものである。

 一方,ゴムとしての性質を示す高分子は,分子の形態の変化が起こりやすく,分子間の相互作用が弱いもので,このような分子の間のところどころに結合(橋架け)をつくっておくと,大きい弾性を示すことになる。プラスチック(合成樹脂)は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に大別される。前者となる高分子は,常温では固体であるが加熱すると液体となるもので,この液体を適当な形にして冷却すると固化して成形品が得られる。この溶融-固化の変化は可逆的に行うことができる。

 これに対して,熱硬化性樹脂として用いられる高分子は,あまり分子量の大きいものではないが,加熱すると分子の間で反応が起こって分子量が増大し,ついには三次元の網目構造を形成し,不溶不融の状態となって硬化する。この変化は不可逆である。

 比較的めだたないが重要な用途としては塗料と接着剤がある。プラスチックとして用いられる高分子の多くが,塗料,接着剤としても用いられる。多くの場合,それらの高分子は有機溶媒に溶解あるいは水に分散させた状態で用いられ,その溶媒や水が揮発したあとに塗膜が残り,また接着が起こる。熱硬化性樹脂となる高分子では,反応が起こって硬化する。

 上に述べたような構造の形成以外の機能を主として利用する高分子を機能性高分子という。これには,イオン交換樹脂,感光性樹脂,分離用の膜,電気・電子材料など多様な用途がある。
機能性高分子 →合成樹脂 →ゴム →繊維

天然に存在する高分子のうち,核酸と酵素タンパク質はそれぞれ遺伝情報の保持・伝達と,その形態・代謝・運動等としての発現をつかさどるもので,生体高分子と呼ぶ。生命活動に必要な大量の情報の保持・伝達・発現には線状の高分子は最適の構造なのである。しかし合成高分子で生体高分子に相当する機能をもつものは,まだつくられていない。
生体高分子

木綿,麻,絹,羊毛や皮革,木材の利用の歴史はきわめて古い。しかし,これらの物質が高分子であることの認識が確立したのは1930年ころのことであるから,高分子の工業の歴史はその意味では新しい。このころに高分子を合成する方法の一般的原理も確立され,30年代から40年代にかけて多様な合成高分子がつくり出され,その工業化が進んだ。現在生産されている合成高分子のかなりの部分は,基本的にはこの時期に開発されたものである。50年代に入ると,有機化学,触媒化学の発展によって,それまで重合させるのが困難であったモノマーからも高分子がつくれるようになった。ポリプロピレンはその代表である。この時期の工業的な意味で大きい変革は,石炭から石油への原料の転換である。当時の安価な石油を原料として高分子合成の化学工業はきわめて大規模なものとなった。60年代に入ってからも,生産プロセスの改良と既存ポリマーの改良は著しく進んだ。

 高分子化学工業は化学工業全体のなかでも大きい部分を占めており,基幹的な化学工業の一つとしての安定期ないし成熟期に入ったとみることができよう。それと同時に,高分子化学工業をめぐる環境も大きく変化した。大規模化に伴い産業廃棄物の問題が顕在化し,これが生産プロセスの変革に対する強いインパクトとなっている。製品の使用後の廃棄に関するいわゆる〈プラスチック公害〉の問題は,価格の低廉さをてことして,ある意味で必要以上の性能(たとえば安定性)をもつものが,使い捨て用途の製品として大量に生産,消費されることがそのおもな原因とみられるが,これについては高分子材料の質そのもの以上に,量と生産-流通-消費-廃棄ないし回収の社会的システムの問題が重要と考えられる。上述のような状況のなかで,また原料(石油)の価格の高騰の条件のもとに,70年代後半以降,既存の汎用高分子に代わって,単なる構造形成以上に,より個性の豊かな機能をもち,付加価値の高い機能性高分子に強い関心が向けられている。個性的であることは用途の特殊さにつながり,工業としての量的な規模の大きさは汎用高分子の場合とはまったく異なるわけで,石油化学工業の大規模な生産体系のうえの高分子化学工業とは質の異なるものが要求されることになる。
高分子化学
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化学辞典 第2版 「高分子」の解説

高分子
コウブンシ
polymer, macromolecule

ポリマー,重合体ともいう.低分子に対する用語.分子量の大きな化合物をいう.一般に,分子量が約10000以上のものを高分子といい,以下のものをオリゴマーという.天然高分子合成高分子に大別される.また,有機高分子に対し無機高分子がある.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高分子」の意味・わかりやすい解説

高分子
こうぶんし

高分子化合物

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栄養・生化学辞典 「高分子」の解説

高分子

 →ポリマー

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世界大百科事典(旧版)内の高分子の言及

【分子】より

…それはポリエチレンと呼ばれ,代表的なプラスチックである。このように分子量が数千から数十万に及ぶ分子を高分子という。高分子は,低分子量の分子にはない特性をもつ。…

※「高分子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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