改訂新版 世界大百科事典 「魚山声明六巻帖」の意味・わかりやすい解説
魚山声明六巻帖 (ぎょさんしょうみょうろっかんじょう)
天台声明の曲集。《魚山顕密声明集略本》《魚山集略(本)》《魚山六巻帖》《六巻帖》《声明集》などの名称を持つ。1172年(承安2)または73年良忍の高弟家寛(けかん)は,後白河法皇に声明を伝授するにあたって,声明集を選上した。のちに,この声明集から常用の曲を抄出して6巻(6帖)の体裁としたものが現れ,これが通称〈六巻帖〉の名で天台声明の基本的な曲集の位置を占めるにいたった。最初の版本は憲真(けんしん)(?-1683)によって出されたが,家寛からこの版に至るまでの事情はいまだ明らかではない。この憲真本は,四箇(しか)法要(始段唄(しだんばい)ほか),錫杖(錫杖ほか),両界(四智讃ほか),普賢讃(普賢菩薩行願讃のみ),灌中音(灌頂唱礼ほか),云何唄(うんがばい)(云何唄のみ)の各巻からなっていて,江戸期を通じて再刷や再刻が重ねられた。その後,宗淵(しゆうえん)(1786-1859)は,この憲真本に,宗快(しゆうかい)が《魚山目録》(1238著)で示した声明曲ごとの記譜上の原理である出音図(しゆつとんず)や五音表を加え,各巻の曲目内容も変えたうえで,これを一冊に合綴して刊行した。この宗淵本は今日,天台宗でひろく流布している魚山版六巻帖の原型となった。ただし,1816年(文化13)宗淵跋文を持つ《魚山集略本》とその後の魚山版とでは各巻の曲目配置に変化があり,さらに第4巻,第5巻の入替えなどが行われている。
執筆者:岩田 宗一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報