日本大百科全書(ニッポニカ) 「鴨の騒立」の意味・わかりやすい解説
鴨の騒立
かものさわだち
江戸後期、三河(みかわ)(愛知県)に起こった加茂一揆(かもいっき)の記録。三河国幡豆(はず)郡寺津(てらつ)村の寺津八幡宮(はちまんぐう)神官で国学者でもあった渡辺政香(1776―1840)が、1836年(天保7)に同国加茂郡で起こった大一揆の全経過をリアルに描写したもので、江戸時代の百姓一揆実録のなかでも代表的な叙述の一つ。原本は本文58丁と追録24丁からなり、西尾市立図書館岩瀬文庫蔵。一揆終了後の遅くない時期に成立したものと考えられている。百姓一揆文献のなかで「世直し」の表現がみられる早い例として有名で、また一揆指導者辰蔵(たつぞう)が領主を痛烈に批判する姿を描いていることでも知られる。なお、近年、本書叙述の参考文献となったと思われる『鴨の騒噺(さわぎばなし)』という一揆実録が渡辺政香の蔵書のなかから発見され、本書の成立過程を解明する鍵(かぎ)として注目されている。
[齋藤 純]
『『日本庶民生活史料集成 第6巻』(1968・三一書房)』▽『『民衆運動の思想』(『日本思想大系 58』1970・岩波書店)』