思想(読み)しそう

精選版 日本国語大辞典 「思想」の意味・読み・例文・類語

し‐そう ‥サウ【思想】

〘名〙
① (━する) 心に思い浮かべること。思いをめぐらすこと。また、その考え。〔いろは字(1559)〕
遠羅天釜(1747)答鍋島摂州矦近侍書「精錬刻苦し、思想尽き情念止むに似たりと云へども」 〔蜀志‐許靖伝裴注〕
② 哲学でいう。
(イ) 思考されている内容。広義には意識内容の総称。狭義には、直接的な知覚や具体的な行動と対比して、文や推論などの論理的な構造において理解されている意味内容。〔哲学字彙(1881)〕
(ロ) 統一された判断体系
※国会論(1888)〈中江兆民〉「此れは是れ貴富人多数の持論なり、旨義なり、何の政治思想(シソウ)か有るや」
珊瑚集(1913)〈永井荷風訳〉序「軍国政府為めに海外近世思想の侵入せん事を悲しみ」
③ 社会、人生などに対する一定の見解。
※舞姫(1890)〈森鴎外〉「独立の思想を懐きて、人なみならぬ面もちしたる男を」

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デジタル大辞泉 「思想」の意味・読み・例文・類語

し‐そう〔‐サウ〕【思想】

[名](スル)
心に思い浮かべること。考えること。考え。「新しい思想が浮かぶ」
「普天下の人をして自由に―し」〈中村訳・自由之理
人生や社会についての一つのまとまった考え・意見。特に、政治的、社会的な見解をいうことが多い。「反体制思想を弾圧する」「末法まっぽう思想」「危険思想
哲学で、考えることによって得られた、体系的にまとまっている意識の内容をいう。
[類語](1想念思念観念考え思いねん気持ち感懐感想所懐胸懐心懐胸中心中しんちゅう心事心情心境感慨万感偶感思考思索一存メンタル心的内的精神的内面的観念的心理的知能心理精神力メンタリティースピリチュアル精神こころ知情意心神内心心魂内面マインドハートスピリットエスプリ精魂気迫神気気概気力意力意志神経気構え理念気風気性きしょう心性さが/(2主義理念信条信念哲学人生観世界観思潮イズムイデオロギー精神

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改訂新版 世界大百科事典 「思想」の意味・わかりやすい解説

思想 (しそう)

一般に,哲学や文学,芸術,あるいは政治や社会認識,宗教や科学など,さまざまな分野の知識体系と,その根底にある総合的な観念体系を指していう。この根底的観念体系は,行為したり,話したり,書いたりする人間の表現活動のすべて,すなわちまた,知的な思考活動だけでなく想像力や感情をも含む人間の心の働きの表出のすべてであるが,単なる断片(想念)ではなく,人間が生きる世界と,そこでの人間の生き方に関する,なんらかの程度で組織立った(体系的な)理解の仕方である。このような世界と人生についての理解のうち,もっとも組織立った,したがってもっとも論理化された原理的理解は,古来哲学であると考えられたから,しばしば思想の代表的な事例は哲学だと考えられる。そして,それよりもより組織化の度合の低いものとして,したがってより具体性,素材性の大きいものとして,文学や芸術(ただし音楽はしばしば哲学と同列におかれる),さらには政治や経済などの場合が考えられる。一方,科学は,近代になって,哲学から分離して客観的実在の法則を探求するものと考えられるようになると,思想とはちがったものと考えられたが,今日では再び世界と人生についての理解の仕方として,思想の一つの形態と考えられている。

 ところで,西欧では,〈思想〉を意味するthought(英語),Gedanke(ドイツ語),pensée(フランス語)などの語は,伝統的に思考と密接に結びついて理解されてきた。古くは,意志をも含んだ精神活動の全体を指していたが,18世紀以降,より厳密に思考を主観的な反省や推論などの理性的意識の活動と考え,さらにそれを普遍的理念に基づくものとする観念論的考え方が確立されると,思想ももっぱら理性の活動とその所産として理解される傾向が強くなった。しかし,マルクスが,政治的,法律的観念や制度,哲学や宗教,道徳をも含むあらゆる意識形態を,物質的な生産関係(下部構造)に規定されるイデオロギー上部構造)として解明し,またS.フロイトが,心の無意識の活動を発見し,欲動の力動的な機制から文化や社会を解明する観点を提起するなど,19世紀末から20世紀初めにかけて,思考の非理性的な基盤が明らかにされると,思想を知的活動だけでなく感性的イメージをも含むより広い人間の表現活動とみる考え方がひろがった。それとともに,人間の表現活動を,主観的な認識や信念をこえた客観的な集合的活動とみる見方も一般化した。

 そこで,丸山真男がいうような,思想を次のような四つの成層において見る考え方が一般的となる。すなわち,(1)もっとも抽象化された理論学説の下に,(2)より一般的な世界や人生についてのイメージの体系(世界観,人生観)があり,さらにその下に,(3)具体的,個別的な問題・状況に実践的に対応する意見,態度があり,もっとも底辺には,(4)生活感情,実感,さらには意識下の次元がある,とする見方である。こうして,現代では,思想の表層と深層が区別され,思想という概念の内容と範囲がひろがるとともに,思想の深層の探求が,旧来の知の体系を革新しつつある。

 さて,このように思想の概念は多義的であるから,日常的には,思想という語の使われ方も多様である。日本でこの語が今日に近い意味で用いられるようになったのは,明治以降,とくに明治20年代のころからといわれる。その場合,西洋の哲学や文学,あるいは政治・社会思想の移入にともなってそれらの諸思想を指して用いられ,同時に,そのような問題を考えることが思想と呼ばれた。そして,明治30年代以降,近代的自我の覚醒が家制度や国家権力との緊張関係のなかで,いわゆる〈私小説〉的精神風土を生むにつれて,思想は人生問題を中心とする内心の煩悶を示す言葉ともなった。やがて西欧近代思想が本格的に研究され,また社会主義や無政府主義が導入されるとともに,ひろく社会問題を論じ,社会改革を主張するものを,とくに思想の名で呼ぶようにもなり,ついには〈思想問題〉や〈危険思想〉という言葉も生まれて,思想という語に政治的意味合いが含まれるまでになった。とくに第2次大戦前の昭和期には,〈思想的〉という語が〈左翼的〉〈革命的〉という含意をもつまでになった。このような多様な含意は,日本語の思想という語に,西欧の場合のような厳密な思考との密接な関連を失わせる傾向を生んだが,今日では,思想は,洋の東西を問わず,前記のような理解のし直しが求められている。
思考 →思想史 →世界観 →哲学
執筆者:

思想 (しそう)

岩波書店刊行の哲学,社会科学を中心とする学術・思想雑誌。1921年10月,和辻哲郎を主幹として創刊された。それは先に同じ岩波書店から阿部次郎を主幹として刊行された《思潮》(1917-19)を引き継ぎ,〈時流に媚びずしかも永遠の問題に一般の読者を近づけようとする雑誌〉(発刊の辞)として,折からの大正教養主義思潮を代表する雑誌となった。その後,高橋穣(ゆたか),三木清,林達夫,谷川徹三らが編集に参加し,大正・昭和期の時代思潮を映しながら,日本の代表的学術・思想雑誌として今日に及んでいる。
執筆者:

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普及版 字通 「思想」の読み・字形・画数・意味

【思想】しそう(さう)

思う。考え。魏・曹植〔盤石〕楽府 天を仰ぎて長く太息す 思想して故を懷ふ

字通「思」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「思想」の意味・わかりやすい解説

思想
しそう
thought; Gedanke; pensée

広くは精神の活動全般をさすが,一般には感情や意志に対して思考的現象をいう。より厳密には総合的な認識対象を理解する悟性ないし理性の働き,またはこのように理解されたかぎりでの対象をも意味する。唯物史観においては経済,生産構造などの下部構造に対して,観念,法律,科学,哲学,芸術などの上部構造である社会的意識の総体をいう。

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世界大百科事典(旧版)内の思想の言及

【岩波書店[株]】より

…その後,西田幾多郎,阿部次郎,安倍能成らの協力によって15年《哲学叢書》を刊行し,大正年間には40点を超えた。この成果に立って21年学術雑誌《思想》を刊行する。このような出版活動は,大正期における教養主義的風潮を背景としていたが,岩波は新しい知識階級の形成を志向することになる。…

【思想】より

岩波書店刊行の哲学,社会科学を中心とする学術・思想雑誌。1921年10月,和辻哲郎を主幹として創刊された。…

【林達夫】より

…その後この住居を離れたのは,晩年の短いヨーロッパ旅行(1971‐72)だけであった。1927‐28年第1次《思想》の編集,次いで29‐45年和辻哲郎,谷川徹三とともに第2次《思想》の編集に従い,〈《思想》をやわらげなきゃならない〉〈学問と学問の垣根をとってインターになる,そういうことをやらなくちゃいけない〉(《著作集》VI)の方針で通した。 文芸復興期の研究では,主として科学技術的な面を扱った《発見と発明との時代》(1927),主として人文主義を論じた《文芸復興》(1928)が戦前の仕事であり,その経済的背景を分析した《ルネサンスの母胎》(1950)と,政治的・社会的功罪を説く《ルネサンスの偉大と頽廃》(1951)が戦後の仕事であり,見事に相互補完的である。…

※「思想」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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