デジタル大辞泉 「思想」の意味・読み・例文・類語
し‐そう〔‐サウ〕【思想】
1 心に思い浮かべること。考えること。考え。「新しい
「普天下の人をして自由に―し」〈中村訳・自由之理〉
2 人生や社会についての一つのまとまった考え・意見。特に、政治的、社会的な見解をいうことが多い。「反体制
3 哲学で、考えることによって得られた、体系的にまとまっている意識の内容をいう。
[類語](1)想念・思念・観念・考え・思い・
一般に,哲学や文学,芸術,あるいは政治や社会認識,宗教や科学など,さまざまな分野の知識体系と,その根底にある総合的な観念体系を指していう。この根底的観念体系は,行為したり,話したり,書いたりする人間の表現活動のすべて,すなわちまた,知的な思考活動だけでなく想像力や感情をも含む人間の心の働きの表出のすべてであるが,単なる断片(想念)ではなく,人間が生きる世界と,そこでの人間の生き方に関する,なんらかの程度で組織立った(体系的な)理解の仕方である。このような世界と人生についての理解のうち,もっとも組織立った,したがってもっとも論理化された原理的理解は,古来哲学であると考えられたから,しばしば思想の代表的な事例は哲学だと考えられる。そして,それよりもより組織化の度合の低いものとして,したがってより具体性,素材性の大きいものとして,文学や芸術(ただし音楽はしばしば哲学と同列におかれる),さらには政治や経済などの場合が考えられる。一方,科学は,近代になって,哲学から分離して客観的実在の法則を探求するものと考えられるようになると,思想とはちがったものと考えられたが,今日では再び世界と人生についての理解の仕方として,思想の一つの形態と考えられている。
ところで,西欧では,〈思想〉を意味するthought(英語),Gedanke(ドイツ語),pensée(フランス語)などの語は,伝統的に思考と密接に結びついて理解されてきた。古くは,意志をも含んだ精神活動の全体を指していたが,18世紀以降,より厳密に思考を主観的な反省や推論などの理性的意識の活動と考え,さらにそれを普遍的理念に基づくものとする観念論的考え方が確立されると,思想ももっぱら理性の活動とその所産として理解される傾向が強くなった。しかし,マルクスが,政治的,法律的観念や制度,哲学や宗教,道徳をも含むあらゆる意識形態を,物質的な生産関係(下部構造)に規定されるイデオロギー(上部構造)として解明し,またS.フロイトが,心の無意識の活動を発見し,欲動の力動的な機制から文化や社会を解明する観点を提起するなど,19世紀末から20世紀初めにかけて,思考の非理性的な基盤が明らかにされると,思想を知的活動だけでなく感性的イメージをも含むより広い人間の表現活動とみる考え方がひろがった。それとともに,人間の表現活動を,主観的な認識や信念をこえた客観的な集合的活動とみる見方も一般化した。
そこで,丸山真男がいうような,思想を次のような四つの成層において見る考え方が一般的となる。すなわち,(1)もっとも抽象化された理論や学説の下に,(2)より一般的な世界や人生についてのイメージの体系(世界観,人生観)があり,さらにその下に,(3)具体的,個別的な問題・状況に実践的に対応する意見,態度があり,もっとも底辺には,(4)生活感情,実感,さらには意識下の次元がある,とする見方である。こうして,現代では,思想の表層と深層が区別され,思想という概念の内容と範囲がひろがるとともに,思想の深層の探求が,旧来の知の体系を革新しつつある。
さて,このように思想の概念は多義的であるから,日常的には,思想という語の使われ方も多様である。日本でこの語が今日に近い意味で用いられるようになったのは,明治以降,とくに明治20年代のころからといわれる。その場合,西洋の哲学や文学,あるいは政治・社会思想の移入にともなってそれらの諸思想を指して用いられ,同時に,そのような問題を考えることが思想と呼ばれた。そして,明治30年代以降,近代的自我の覚醒が家制度や国家権力との緊張関係のなかで,いわゆる〈私小説〉的精神風土を生むにつれて,思想は人生問題を中心とする内心の煩悶を示す言葉ともなった。やがて西欧近代思想が本格的に研究され,また社会主義や無政府主義が導入されるとともに,ひろく社会問題を論じ,社会改革を主張するものを,とくに思想の名で呼ぶようにもなり,ついには〈思想問題〉や〈危険思想〉という言葉も生まれて,思想という語に政治的意味合いが含まれるまでになった。とくに第2次大戦前の昭和期には,〈思想的〉という語が〈左翼的〉〈革命的〉という含意をもつまでになった。このような多様な含意は,日本語の思想という語に,西欧の場合のような厳密な思考との密接な関連を失わせる傾向を生んだが,今日では,思想は,洋の東西を問わず,前記のような理解のし直しが求められている。
→思考 →思想史 →世界観 →哲学
執筆者:荒川 幾男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広義には、思考によって精神のうちに生じたすべての現象をいう。
これには高次なものから順に次の四つの段階を区別することができるだろう。
(1)明確な体系的秩序をもった理論や学説。
(2)世界についてのいろいろな見方、人生についてのいろいろな考え方を表す世界観、人生観を包括したもの。
(3)日常の生活場面において事に処するときの、ものの見方、考え方。
(4)理性的反省以前の生活感情、生活ムード、意識下にある志向。
デカルトやカントの思想という場合は(1)の段階をさすことになるが、(4)の場合のような原始的段階まで含めて用いられる広義のことばなのである。一般に、原理的、体系的な思考としての哲学に比して、思想はより具体的な素材に即してそのつどの思考を展開するものをさしていると考えていいであろう。
[伊藤勝彦]
1921年(大正10)10月1日、真善美に奉仕する労作を集録する目的で岩波書店より創刊された学術雑誌。28年(昭和3)一時休刊。翌年、和辻哲郎(わつじてつろう)、谷川徹三(てつぞう)、林達夫の編集により復刊、西田幾多郎(きたろう)、九鬼周造(くきしゅうぞう)、三木清、戸坂潤(じゅん)らの力作を掲載した。昭和10年代のファシズムに抗して「日本文化」「ヒューマニズム」を特集、新しい思潮にも深い関心を示した。第二次世界大戦後、岩波書店編集となったが、これらの伝統は守られている。
[京谷秀夫]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その後,西田幾多郎,阿部次郎,安倍能成らの協力によって15年《哲学叢書》を刊行し,大正年間には40点を超えた。この成果に立って21年学術雑誌《思想》を刊行する。このような出版活動は,大正期における教養主義的風潮を背景としていたが,岩波は新しい知識階級の形成を志向することになる。…
…岩波書店刊行の哲学,社会科学を中心とする学術・思想雑誌。1921年10月,和辻哲郎を主幹として創刊された。…
…その後この住居を離れたのは,晩年の短いヨーロッパ旅行(1971‐72)だけであった。1927‐28年第1次《思想》の編集,次いで29‐45年和辻哲郎,谷川徹三とともに第2次《思想》の編集に従い,〈《思想》をやわらげなきゃならない〉〈学問と学問の垣根をとってインターになる,そういうことをやらなくちゃいけない〉(《著作集》VI)の方針で通した。 文芸復興期の研究では,主として科学技術的な面を扱った《発見と発明との時代》(1927),主として人文主義を論じた《文芸復興》(1928)が戦前の仕事であり,その経済的背景を分析した《ルネサンスの母胎》(1950)と,政治的・社会的功罪を説く《ルネサンスの偉大と頽廃》(1951)が戦後の仕事であり,見事に相互補完的である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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