改訂新版 世界大百科事典 「鹿角装刀剣」の意味・わかりやすい解説
鹿角装刀剣 (ろっかくそうとうけん)
鹿角を彫刻して作った把頭(つかがしら),把縁(つかぶち),鞘口(さやぐち),鞘尾(さやじり)の各部品を装着する鉄製の大刀(たち)または剣。5~6世紀の古墳から出土し,金属装具を用いる中国系の外装形式を受容する以前の,日本で独自に発達した刀剣外装である。5世紀型の鹿角装刀剣は,剣と大刀とに同一形状の装具を用いた。すなわち,把頭装具は円筒形で前端面に段を設け,後面に長方形の盲孔を穿って把木を挿入する。把縁装具は後面を広く前面を狭くした楕円錐台形の本体の背側に円柱状の突出部をとりつけた形とし,後面に鎺(はばき)に相当する部分を造りだして鞘口装具に組み合わせる。鞘口装具は逆に前面を広く後面を狭くした楕円錐台形に作り,前面に把縁装具に対応する凹所を彫りこんでいる。鞘尾装具は楕円形ないし紡錘形平面の短い柱状に作り,前面に長方形の盲孔を穿って鞘木を挿入する。これらの装具の外周面には,一定の法則にしたがって配置した直弧文を彫刻するほか,把頭装具の前端面,鞘尾装具の後端面,把縁装具の突出部の後半面にも,それぞれ特殊な帯状表現の文様を配置することが多い。ただし装具の外形のみの彫刻にとどめて,直弧文などの文様を省略することもある。
6世紀型の鹿角装大刀はまだ全貌が判明していないが,鞘口装具を前後の太さが同一になった形に変えている。把縁装具はいちじるしく縮小して背側の突出部を失い,鹿角にかわって木製にすることが多い。また鞘口装具に直弧文を彫刻したばあいにも,把縁装具には直弧文を用いなくなる。これらの変化が生じた原因は,把木として,左右2片に分離したものでなく,1本に削りあげたものを用いて,その背側から刳りこんだ溝の中に茎(なかご)を落としこむ方法を採用したことにあった。この把の構造では,把縁装具は把の一部として同じ材料から造りだせるからである。6世紀型の鹿角装刀剣が大刀のみに顕著であることも,把の構造の変化が大刀に固有であったためである。
執筆者:小林 行雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報