古墳時代に用いた特殊な構図をもつ文様。斜め十字に重ねた2本の帯の側縁における交点を中心として,旋回する帯を渦状に配置し,さらにそれらの間に出没する帯の表現を加えたもの。斜交帯の存在を表面に出す構図と,渦状帯の背後にほとんど隠す構図がある。斜交帯を隠す構図では,その一側縁のみが表面に出ているので,斜交軸とも,対角線とも見なせる。これを対角線と見て想定した方形ないし長方形が,ほぼ直弧文の1単位をかこむ枠になる。しかも直弧文は,枠の外へ渦状にひろがろうとする性質をもつと同時に,隣接する単位図形を,帯の絡み合いによって相互に融合し,その境界を不明にする連続性をもっている。直弧文の単位図形を連続して文様帯を構成する場合に,連続する方向は構図によって一定し,隣接する単位図形は相互に反転した関係にある。さらに文様をほどこすべき器物の表面が狭い場合には,斜交帯の交点をつなぐ中心線によって文様帯を二分し,その一半のみを用いる習慣がある。
直弧文は浮彫として表現することを正式としたが,線刻に簡略化することもあった。直弧文の使用は,刀剣の鹿角装具のような小さい器物にも(鹿角装刀剣),石棺のような大きな器物にも見られて,文様自身が呪術的性格をもつことを示す。靫(ゆき)形などの形象埴輪に直弧文の使用を認めるのも,同じ理由によるものであろう。直弧文という名称は,〈直線および弧線の結合より成る一種の幾何学的文様〉として,浜田耕作が命名したものであるが,これを拡大解釈して,古墳時代の他種の文様まで同じ名で呼ぶ傾向がある。直弧文鏡などの場合は,この広義の直弧文にあたる。
執筆者:小林 行雄
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日本の古墳時代前半期(4~6世紀)に用いられた特徴的な文様。近年その遡源(そげん)は弥生(やよい)終末期の器台形土器文様までたどることができそうである。典型的な直弧文の構成は、斜め十字に交差する2本の直線と、その交点を中心としてめぐる帯状弧線が基本となるとみられており、法則性をもっている。装飾古墳初期の直弧文ではA型、B型、鍵手(かぎのて)文などが知られているが、古い直弧文では多線帯状文の渦状表現が目だつ。施文対象としては靫(ゆぎ)、木製や鹿角(ろっかく)製の刀剣装具、装飾古墳の石棺や石障(せきしょう)などがある。埴輪(はにわ)でも靫、盾(たて)、蓋(きぬがさ)などにみられることは、木製・革製品などにもかなり広く用いられていた可能性があり、当時の代表的な特有の文様であったと思われる。
[伊藤玄三]
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… 九州北部地方の装飾古墳は,ほぼ5世紀中葉から7世紀前葉にかけて営造したものである。4種のうちでまず現れたのは,石棺に直弧文(ちよつこもん)を彫刻したものである。これには,福岡県石人山(せきじんやま)古墳の家形石棺のように,棺蓋に直弧文を浮彫したものと,熊本県鴨籠(かもご)古墳の家形石棺のように,棺蓋に直弧文を線刻したものと,福岡県浦山(うらやま)古墳の家形石棺のように,棺身の内面に直弧文を線刻したものとがある。…
※「直弧文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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