長大な刀。横刀とも書く。〈たち〉は〈断ち〉の意味という。大刀,横刀は記紀の用字であって,小刀,刀子と書く〈かたな〉と対比して用いた。《日本書紀》天智天皇3年(664)2月条に〈大氏の氏上には大刀(たち)を賜う。小氏の氏上には小刀(かたな)を賜う〉とあるのは,その例である。しかし,一方では大刀と書いて〈つるぎ〉と読むこともあって,記紀では大刀と剣との形の区別は厳密でない。また,古墳時代から奈良時代までの,主として直刀に属するものを〈大刀〉と書き,平安時代以降の外反り(そとぞり)刀を〈太刀〉の文字であらわすのが習慣であるが,考古学用語としては,古墳時代の内反りの素環頭(そかんとう)大刀も,便宜上〈大刀〉と書いている。あるいは,刃を下向きにして腰に下げるものを〈たち〉とし,刃を上向きにして帯に差すものを〈かたな〉と呼ぶと説明するが,4~5世紀の大刀の佩用方法は明確でないから,これは6~8世紀の大刀と後世の日本刀との相違を述べたものにすぎない。
古墳時代の大刀は,把頭(つかがしら)などの外装部品の材質によって,木装,鹿角装,金属装などに大別することができる。金属装は,黄金,銅,金銅,鉄などを用いた外装の総称であるが,実際には一口(ひとふり)の大刀に,部品によって各種の金属を併用することも多い。大刀の構造はまず刀身と鞘(さや)とに分かれ,鞘に入らないで,外に出ている部分を把(柄)という。把には把頭と把縁(つかぶち)との装具がつく。把頭と把縁との間を把間(つかあい)と呼ぶが,ここも銀線や金属薄板などでおおうことが多く,その中間に筒金(つつがね)を配置するものもある。把を鞘口に挿入する呑口(のみくち)式の大刀では,把縁は鎺(はばき)と一体に作っている。合口(あいくち)式にして鐔(つば)を用いる場合にも,把縁を省略することがある。鞘には鞘口と鞘尾(さやじり)との装具のほかに,両者の中間に筒金や環状の責金具(せめかなぐ)をおくことが多く,佩用のための足金物(あしがなもの)を2ヵ所に配置したものもある。足金物の位置は,1個を鞘口筒金の後縁に,他の1個を中間筒金の前縁に接しておくものが多い。前者を一の足,後者を二の足と呼び分ける。足金物を用いない大刀では,鞘口装具の裏面に帯を通す装置を設けたものがあるが,実例は少ない。鞘尾には,尾端を平坦に作り,ここに2個の蟹目釘(かにめくぎ)を打ったものと,尾端を丸く作ったものとがある。
金属装大刀を把頭の形式によって細分して,環頭大刀(かんとうのたち),円頭大刀(えんとうのたち),圭頭大刀(けいとうのたち),方頭大刀(ほうとうのたち),頭椎大刀(かぶつちのたち),鶏冠頭大刀などと呼ぶ。ただし把頭の形式に相違があるだけで,各部分の装具には共通する点が多い。そのうち,環頭大刀は環状の装具を把の先端から突出した形にとりつけるものであって,もとは環体から伸びた板状部を茎(なかご)に固定したが,のちには把頭を目釘で木部にとめるようになった。これに対して,円頭大刀以下の諸形式は,すべて中空の把頭装具に把の先端を挿入する方法をとり,把頭と茎とを直結することはない。環頭大刀には,環内に装飾を入れない素環頭と,環内に動物形その他の装飾を入れたものとがある。装飾のあるものは,その種類によって,三葉(さんよう)環,三累(さんるい)(三繫(さんけい))環,双竜環,双鳳環,単竜環,単鳳環,獣面(獅嚙(しがみ))環などと呼び分けるが,その名称は研究者によって相違する。
環頭大刀の把頭は,外環と装飾とを同時に鋳造して鍍金した金銅製が多いが,まれに鉄地に銀板をかぶせたものもある。金銅製環頭の場合に,把頭や鞘口に竜文などを打ちだした銀金貝(ぎんかながい)を用いるものは古く,無文の金銅筒金を用いるものはこれに次ぐ。鱗形文などを打ちだした銀金貝で鞘を包むものがある。奈良県東大寺山古墳出土の大刀に,後漢の中平年銘を金象嵌してある2世紀末の輸入した刀身に,4世紀後葉に作った日本製の鋳銅の環頭を装着したものがあるが,当時は大刀の形式として普及するにいたらなかった。日本製の環頭大刀として特色を発揮したのは,外環の長径を10cm前後に大きくして,平板な表現の双竜装飾をはめこみ,珠文を打ちだした金銅板で鞘を包んで,単脚足金物を2ヵ所に配置したものである。
円頭,圭頭,方頭の3種の大刀の把頭は,この順序で出現して,相互に関連性をもっているので,厳密に分離して説明できない点もある。しいて区別すると,円頭大刀の把頭は把の端がまるみをもっている。把頭に稜線を作る場合は,まるみをもった輪郭に沿ってU字形になる。圭頭大刀の把頭は把の端が山形に屈曲している。把頭の両側に稜線を作らない場合にも,端面には2本の稜線ができる。両側にも稜線を入れた形から,覆輪状の外郭と飾板とを分離する手法が出てくる。方頭大刀の把頭はまるみを失って方形に近くなっている。外郭と飾板とを分離した手法を圭頭大刀から継承したものがある。さきに円頭,圭頭,方頭などの把頭は,中空の装具に把の先端を挿入するものと説明したが,円頭大刀のうちには,木製の把頭を銀金貝で包んだというべきものがある。おそらく,それから金銅あるいは鉄製の装具に進んだのであろう。鉄製の把頭は,円頭大刀にあって圭頭大刀には例を見ず,方頭大刀に多くなる。ただし円頭大刀の鉄製装具には金,銀で文様を象嵌することが多いが,方頭大刀には象嵌がない。なお,円頭,圭頭,方頭および頭椎の把頭には,〈懸(かけ)〉をさげるために懸通孔(かけとおしあな)を設けるのがふつうである。倒卵形の鐔は,円頭大刀に無窓のものを用いはじめ,圭頭大刀では六窓,八窓のものが多くなる。方頭大刀になると倒卵形の鐔は減少して,喰出鐔(はみだしつば)が盛行する。それと関連して,円頭大刀および圭頭大刀では,足金物を用いる場合は単脚に限るが,方頭大刀では双脚に変わって,そのあいだに系統の相違があることを物語っている。
頭椎大刀の把頭は,把の下方に向かって拳(こぶし)状にふくらみ,その後,縁が把の軸線と斜交して,ここに板状の切羽(せつぱ)を添えている。把頭装具は鉄製で文様を象嵌したものもあるが,多くは金銅製で,頭頂に沿って隆起帯を作ったもの,それに平行する凹線を加えたものもあるが,頭頂の1点から放射状に走る凹線群を入れたものが多い。倒卵形で六窓または八窓の大型鐔を用い,2個の単脚足金物を備えるほか,把間および鞘を,文様を打ちこみ,また打ち出した金銅板で包んだものが目だつ。これらの手法は,すべて圭頭大刀との関連性を強く示している。しかも,一方では環を大きくし装飾を板状にした環頭大刀とも共通するが,環頭大刀では鐔を小型にとどめた点に相違がある。
鶏冠頭大刀の把頭は,頂に1個,刃側に3~4個の弧形を並べて,それぞれ面の高低をちがえ,背側は大きくくりこんだ形の装具を用いている。その形が鶏冠(とさか)に似ているとして,はじめ鳥首大刀(とりくびのたち)と名をつけたが,同名の太刀が後世にあるので,改めて鶏冠頭大刀と呼ぶことになった。しかしこの把頭の形は,背側に中心線をおいた蓮華の側面形と見ることができる。喰出鐔,単脚足金物を用い,鞘の筒金に文様を打ちこんでいる。銀装具で一貫したものと,金銅装具のものとがある。
金属装大刀の各種の名称のうちで,古典に出ているのは環頭と頭椎とである。環頭は《東大寺献物帳》に高麗様大刀(こまようのたち)の説明として,〈銀作環頭〉の文がある。この高麗様大刀は,《万葉集》の柿本人麻呂の歌(巻二,199)に,〈わ〉の枕詞として〈狛剣(こまつるぎ)〉を用いていることからもわかるように,環状の把頭をもつ大陸系統の大刀の形式であった。〈頭椎之大刀〉は《古事記》に,〈頭槌剣〉は《日本書紀》に見え,後者は〈箇歩豆智(かぶつち)〉と訓み方を示している。ただし形状については具体的な記述がない。明治期以降の考古学者は,槌状の把頭をもつ金属装の大刀がこれにあたると推定したが,鹿角装ないし木装の大刀をあてる説もある。いずれにしても,両説の当否の決着を見ないうちに,金属装の把頭の一形式に対して頭椎の名を用いる分類が定着してしまった。金属装の頭椎大刀が示す6~7世紀という年代は,神話の潤色の時期にあたっている。
なお《東大寺献物帳》には,唐大刀(からたち)または唐様大刀(からようのたち)の名も出ている。正倉院宝物と対照していうと,これは金銀装や金銅装の華麗な大刀で,把間を鮫皮(さめかわ)で包み,粢鐔(しとぎつば)の古名をもつ唐鐔を用い,双脚足金物の頂につけた山形の飾板の佩裏に,小環を設けて帯執(おびとり)の金具をとりつけ,把頭の懸は佩表の小環に通すなど,すべての点で新様式であることを示している。ただし,唐大刀が唐からの輸入品であり,唐様大刀はその模作という意味の区別はないようである。
→日本刀
執筆者:小林 行雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古墳時代から平安時代中ごろまでの刀。『日本釈名(にほんしゃくみょう)』には、「たつなり、物をたちきるなり」とその語意を記しているが、太刀・横刀もたちといい、劔・剣もたちと読む場合がある。また「剣(つるぎ)太刀」のことばが古くからあり、厳密な区別には問題も残るが、一般的には平安中期ごろ鎬造湾刀(しのぎづくりわんとう)様式が完成する以前の直刀(ちょくとう)を「大刀」と記し、以降の外反刀(そとぞりかたな)(太刀)と区別している。両者は形態、携帯法、使用法を異にする。大刀は柄頭(つかがしら)の形で環頭(かんとう)大刀、頭椎(かぶつち)大刀、方頭(ほうとう)大刀、圭頭(けいとう)大刀、円頭大刀、鶏冠大刀などと名づけている。また刀装の様式から金銀鈿荘唐(でんそうから)大刀、金鈿荘唐様大刀、銅漆作(どうしつづくり)大刀、黒作(くろづくり)大刀などの名称が『東大寺献物帳』にみえている。現存例としては、7世紀(飛鳥(あすか)時代)制作の大阪・四天王寺蔵「丙子椒林剣(へいししょうりんけん)」「七星剣(しちせいけん)」、9世紀前期(平安前期)の茨城県鹿島(かしま)神宮神宝「韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)」(以上国宝)が知られている。
ちなみに「大刀」と記される直刀のうち、4世紀から7世紀ころまでのものは平造(ひらづくり)の扁刃(かたは)(片刃)で、7世紀以降新しく中国より伝えられた様式は切刃造(きりはづくり)大刀となる。
[小笠原信夫]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…人を切るときにはその重力と勢いによる。しかし中国では,通常青竜刀といえばこれと同種の長刀(なぎなた)をさし,柄の短いこの種の軍刀は〈大刀〉という。【中野 輝雄】。…
…鞘(さや)に足金物(あしがなもの)を設け,帯取(おびとり)の緒をつけて,刃を下に向けて腰につるすのを太刀の特色とする。奈良時代から平安時代の初期には大刀または横刀と書いて〈たち〉と読ませ,後世は太刀と書くのが常である。太刀身も作銘(さくめい)は佩表(はきおもて)に入れるのを常とするから,外装がなくとも,刃を上に向けて腰に差す打刀(うちがたな)の類とは容易に識別することができる。…
※「大刀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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