日本大百科全書(ニッポニカ) 「RAS遺伝子」の意味・わかりやすい解説
RAS遺伝子
らすいでんし
がん遺伝子の一つ。ヒトではKRAS、NRAS、HRAS遺伝子の3種が存在する。RAS(KRASおよびNRAS)遺伝子変異は、切除不能大腸がん患者の約50%に認められる。
切除不能な進行・再発大腸がんに用いる分子標的治療薬の一種、抗EGFR抗体薬は、RAS遺伝子に変異を認めない症例(野生型)で治療効果が期待できる。EGFRとは上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor)の略で、大腸がんの約8割で高発現が認められ、がんの増殖、浸潤、血管新生などに関与している。抗EGFR抗体薬は、EGFRのもつ抗原と結合することでその働きを封じ、細胞増殖抑制効果をもたらす。上皮成長因子(EGF)とEGFRが結合すると、細胞内のRASタンパクが活性化され、細胞増殖シグナルが伝達されることから、RAS変異の有無が治療効果予測として用いられる。
大腸がん治療に用いられる抗EGFR抗体薬は、セツキシマブ(商品名:アービタックス)とパニツムマブ(商品名:ベクティビックス)であるが、使用にあたっては、あらかじめRAS遺伝子変異がないこと(RAS野生型)を確認することが必須(ひっす)である。なおRAS遺伝子検査は、2015年(平成27)4月に保険適用となっている。
[渡邊清高 2019年8月20日]