出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
大腸は消化吸収が行われた食べ物の最終処理をする消化管で、主に水分を吸収します。長さは約1.8mで口側から肛門側に
大腸がんは食事の欧米化、とくに動物性脂肪や蛋白質の過剰摂取などにより、日本でも近年急速に増えています。毎年約6万人が
大腸がんの発生原因はまだわかっていませんが、疫学を中心とした研究から、大腸がんの発生は欧米食の特徴である高脂肪、高蛋白かつ低繊維成分の食事と正の相関関係にあり、生活様式が強く関係していることが明らかになっています。また、大腸がんは
遺伝子学的解析では、多くの遺伝子の異常の蓄積によりがんが発生することがわかっています。まずAPC遺伝子の変異により腺腫が形成され、ついでKras遺伝子の突然変異により腺腫が大きくなり異型度(細胞の悪性度)が増します。それにがん抑制遺伝子のp53遺伝子とDCC遺伝子の変異が加わって、がんへ進むとされています。
また、遺伝的要因の明らかなものには
早期の大腸がんではほとんど自覚症状はなく、大腸がん検診や人間ドックなどの便潜血検査で見つかることがほとんどです。進行した大腸がんでは、腫瘍の大きさや存在部位で症状が違ってきます。
右側大腸がんでは、管腔が広くかつ内容物が液状のために症状が出にくく、症状があっても軽い腹痛や腹部の違和感などです。かなり大きくなってから腹部のしこりとして触れたり、原因不明の貧血の検査で発見されることもあります。
左側大腸がんでは、比較的早期から便に血が混ざっていたり、血の塊が出たりする症状がみられます。管腔が狭く内容物も固まっているため、通過障害による腹痛、便が細くなる、残便感、便秘と下痢を繰り返すなどの症状が現れ、放っておけば完全に管腔がふさがって便もガスも出なくなり、
直腸がんでは左側大腸がんとほとんど同様の症状がみられますが、肛門に近いために痔と間違えられるような出血があり、痔と思われて放置されることもあります。また、直腸がんでは近接している膀胱や子宮に
大腸がんは、早期に発見できればほぼ100%近く完治できる病気ですが、早期の大腸がんでは症状がありません。無症状の時期にがんを発見するには、便の免疫学的な潜血反応を調べます。簡単に行えて体に負担のない検査ですが、陽性と出ても必ず大腸がんがあるわけではなく、逆に進行した大腸がんがあっても陰性になることもあります。
排便時の出血や便通異常がある場合には、血液検査で貧血がないかどうか、また腹部のX線検査でガスの分布の状態を調べます。腹部の触診では
確定診断をするためには、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れて空気で大腸をふくらましX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査が必要です(図25)。大腸内視鏡検査は挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。
内視鏡検査では、直接大腸の内側を観察し、異常があれば一部をつまみ取って顕微鏡で悪性かどうかを調べます(生検)。ポリープやごく早期のがんであれば内視鏡で簡単に治療が可能で、診断と治療を同時に行うことも可能です。最近では、内視鏡治療である粘膜下層
また、がんの進行度によっては、周囲の臓器への広がりや肝臓やリンパ節への転移の有無を調べるために腹部の超音波やCT、MRI、超音波内視鏡検査を行うこともあります。
大腸がんの治療の原則は、がんを切除することです。大腸の壁は内腔側より粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、
リンパ節転移の可能性があり内視鏡治療ができないのものや進行したがんでは、外科手術が必要です。手術では開腹し、腫瘍を含めた大腸の一部を切除してリンパ節の
また最近では、小さな傷で手術ができる腹腔鏡を用いた治療が急速に普及してきており、早期がんばかりではなく隣接臓器に浸潤していない進行がんに対しても行われるようになってきています。
進行した直腸がんでは、肛門から離れている場合には肛門の筋肉が温存できる
人工肛門もさまざまな装具が開発されており、普通に社会生活が送れるようになっています。
がんが広がりすぎていて切除不能な場合には、抗がん薬を用いた化学療法、放射線療法、免疫療法などが行われます。
大腸がんは早期に発見できれば、そのほとんどが内視鏡的に、または外科的に根治可能な病気です。早期大腸がんの5年生存率は80%以上と極めてよく、進行がんでもがんの浸潤の程度とリンパ節転移の程度により予後が変わってきます。また、大腸がんは肝臓にいちばん転移しやすいのですが、肝臓転移が見つかっても、肝臓を手術したり抗がん薬を注入したりして長期に生存することも可能です。
40歳を過ぎたら、症状がないうちに大腸がんの検診を受けるようにします。また、血便や便通異常などの症状がみられたら、すぐに専門医で検査を受けるようにします。
坂田 祐之, 藤本 一眞
大腸がんの発生頻度は加齢とともに増加する傾向があります。東京都老人医療センターの連続剖検の5082件の検索では、60代では5.6%、70代では4.9%、80代では6.4%、90歳以上では7.1%に大腸がんが認められたと報告されています(金沢暁太郎:老人の大腸癌、クリニカ1998、25)。また最近の10年ではその前の10年に比較して1.5倍程度の増加を示しています。
高齢者の大腸がんの特徴として、近位側結腸つまり右側のがんの頻度が増加すること、および多発がんの頻度が増すことがあげられます。
75歳以上の患者さんの大腸・直腸がんの術後の生存状況をみると、高齢者でも大腸がんを切除することによって死亡率の低下や長期生存が得られていることがわかります。90歳以上の進行大腸がん手術は、出血および腸閉塞により緊急手術となる頻度が高いのですが、切除率や手術死亡率は70代と同様であり、積極的に治癒切除をするべきとする報告もあります。したがって、高齢者の大腸がんは積極的に手術するべきと考えます。
大腸がんではリンパ節郭清のレベルを上げても、胃がんのように手術そのものが大きく変わることはなく、手術時間、出血量、手術侵襲が大きく増すことはありません。また、術後の食事摂取に支障のないことが多いため、高齢者でも重篤な合併症がなく、根治性の期待できる進行がんの場合には2群以上の系統的リンパ節郭清(D2)を伴う根治手術を行うべきであるとする報告もあります。
すなわち、高齢者に対する外科医としての実感やこれまでの報告からは、胃がんと違って高齢であるという理由によって根治性を落とした手術をする必要はないと思われます。根治性を落とすべきなのは、併存する合併症に対してであり、これは年齢に対してではない、ということです。
高齢者では大腸がんの緊急手術の頻度が非高齢者に比較して有意に高いことや、合併症があったり全身状態が悪かったりすることが多いことなどから、
高齢者では動作の
大腸がんは、家族性に発生することの比較的多い病気です。数%程度が遺伝性と考えられています。そのうち、遺伝的な原因が明らかになっている
小杉 眞司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
大腸の癌腫。発生の部位によって直腸癌と結腸癌に大別される。原因は不明であるが,重視されているのは大腸ポリープのうちの大腸腺腫の癌化で,腺腫の性別頻度,年齢別頻度,部位別分布が大腸癌のそれに一致し,かつ腺腫の一部に癌が見つかることがあるからである。一部の癌は直接発生する。人口10万人に対する大腸癌の訂正死亡率は,男性29.6人,女性22.8人である(1996年度人口動態統計による)。この頻度は欧米に比べて低く,日本の胃癌の頻度に比べても,男で1/2,女で2/3である。性別比ではやや男性に多く(1.2~1.5対1),年齢別では60歳代が最も多く,次に50歳代と70歳代がこれに次いでいる。しかし日本でも近年増加しつつある。好発部位は,直腸が40~50%を占め,次いでS状結腸(25%前後),盲腸(4~12%),上行結腸(6%)などである。大腸癌は肉眼的,組織学的,あるいはその深達度と転移の有無などの基準で表のように分類される。大腸腺腫症や潰瘍性大腸炎に合併することもある。大腸癌は腸壁を破ったのち隣接臓器に直接に浸潤し,さらに漿膜,腹膜への伝搬(癌性腹膜炎),リンパ節転移,さらに門脈を介して肝臓,肺,副腎,腎臓,膵臓,骨などへの血行転移がみられる。
早期大腸癌は無症状で,たまたま注腸X線検査,内視鏡検査,生検,ポリペクトミー(ポリープ切除術)などで発見される。しだいに大きくなると,新鮮血の排出,粘血便,便秘や下痢,ときに便秘と下痢が交代にみられる便通異常,腹痛などを呈してくる。癌の発生部位によって臨床症状は多少異なる。右側結腸癌は,病気が進行してから症状が出るため,大きい潰瘍を形成し腫瘤になり,貧血,腹痛,便通異常,体重減少,腹部腫瘤の触知などで診断される。左側結腸癌は,大腸閉塞症状,すなわち腹痛,便通異常,悪心嘔吐,体重減少,衰弱や肛門出血で,比較的に右側よりも早期に診断される。腹痛は痙攣(けいれん)様ないし疝痛様で,放屁やガスの通過で軽減する。直腸癌は,下血~血便,便通異常,腹痛などを呈する。末期には悪液質となり,種々の合併症を伴う。合併症としては,腸閉塞,腸穿孔(せんこう),膿瘍,癌性腹膜炎,閉鎖性結腸炎,ときに膀胱や腟へ直接浸潤し瘻孔(ろうこう)形成,排尿障害などがある。検査では,糞便潜血反応は高度に陽性になり,病気が進むと低色素性小球性貧血などの貧血,血中CEA(carcinoembryonic antigenの略で,胎児タンパク質の一種)値上昇などがみられる。
直腸指診,大腸X線(注腸)検査,大腸内視鏡,腸生検などによる。大腸X線像では陰影欠損やアップル・コアapple-core(リンゴの芯のような像)またはナプキン・リングnapkin-ring徴候(ナプキンの環のような像)として現れる。粘膜内癌は,内視鏡的粘膜切除術による完全生検により診断される。治療は,大腸早期癌で内視鏡的粘膜切除術により根治できるものを除けば,原発臓器と所属リンパ節の摘出を行う外科的根治手術か腹腔鏡下腸切除術が必要である。人工肛門造設,化学療法,放射線療法も併用される。治療後の5年生存率は,表在型で92.9%,腫瘤型63.6%,潰瘍限局型57.1%,潰瘍浸潤型40.0%である。デュークス分類による5年生存率は,デュークスAは89~96%,Bは70%,Cは30~56%である。
→癌
執筆者:朝倉 均
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人口の高齢化と食生活の欧米化の影響で、日本でも大腸がんが急激に増えています。同時に、診断技術の進歩、内視鏡による治療や外科手術の進歩によって治療成績も飛躍的に向上しています。大腸がんは、がんのできた部位によって、上行結腸がん、横行結腸がん、下行結腸がん、S状結腸がん、直腸がんに分けられますが、直腸がんとその他の大腸がんとでは、検査手順が少し異なります。
●おもな症状
血便、腹部
①便潜血反応(数回行う)/直腸指診/腫瘍マーカー
▼
②下部消化管X線造影
▼
③下部消化管内視鏡/生検(病理診断)
便潜血反応は繰り返し行うと効果的
大腸がんを疑うような症状があった場合は、その後の検査・診断方法を選択するためにも、まず問診が重要になります。どのような症状がどのくらい続いたかをくわしくきいていきます。大腸ポリープの有無も重要な情報です。また、わずかですが、家族性に発生する大腸がんもあるため、家族歴にも注意が必要です。
検診では、1990年代から便潜血反応(→参照)が行われていて、第一次のスクリーニング(ふるい分け)として効果を発揮しています。ただし、便潜血反応は何回か繰り返して行わないと確かなことはわかりません。
腫瘍マーカー(→参照)はいろいろなものが開発されていますが、検出率に問題があって早期がんの診断には向いていません。それらのうちで、CEA、CA19-9、TPAは比較的高い率で陽性になり、大腸がんではそれぞれ50~60%、40~50%、55~65%となっています。これらを組み合わせて検出率を高めると、陽性率は70%程度にまでなります。
直腸がんでは、肛門から10㎝程度までの部分にできたがんは触診(直腸指診)で確認できます。また、直腸鏡検査は外来で行うことが可能です。
ポリープ状のものは内視鏡下で切除も可能
便潜血反応で疑わしい所見があった場合は、まず下部消化管X線造影(→参照)が行われます。隆起があったりポリープ状のものは、X線造影でよくわかります。
下部消化管内視鏡(→参照)が最終検査ですが、近年は最初から内視鏡を行うことが多くなっています。
内視鏡は、X線造影では発見できない色調の変化や小さな病変をみつけることができます。同時に疑わしい病変があれば、その組織を採取(
出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(黒木登志夫 岐阜大学学長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…食後便意が起こるのは,胃の充満伸展により胃大腸反射が起こり,大腸運動が高まるためである。
[大腸の病気]
大腸にみられる病気には種々のものがあるが,大腸癌が最も重大である。消化管の癌のなかでは胃癌に次いで多い。…
※「大腸癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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