改訂新版 世界大百科事典 の解説
RNA依存性DNAポリメラーゼ (アールエヌエーいぞんせいディーエヌエーポリメラーゼ)
RNA dependent DNA polymerase
逆転写酵素reverse transcriptaseとも呼ばれる。RNAの塩基配列をもとにDNAを合成する酵素で,RNAウイルスの一種類であるレトロウイルス類の粒子内に含まれ,ウイルスの一本鎖RNAを鋳型に,相補的な塩基配列をもつDNA鎖を合成する。合成後のRNAとDNAとの二重鎖をもとに,二重鎖DNAを合成する反応もこの酵素が行う。RNA腫瘍ウイルスで発見されたことから,この類のウイルスに起因する癌化機構に知見を与えたが,RNAを鋳型にDNAを合成するという,通常とは逆方向の遺伝情報の流れの存在を示した意義も大きい。遺伝子工学の分野において,この酵素の特異な性質を利用し,mRNAを鋳型に相補的なDNA(cDNAと呼ばれる)を合成することが行われており,遺伝子のクローン化の一手段となっている。
執筆者:池村 淑道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報