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遺伝子工学 イデンシコウガク

デジタル大辞泉の解説

いでんし‐こうがく〔ヰデンシ‐〕【遺伝子工学】

genetic engineering遺伝子操作技術を利用して、有用な物質や生物を多量に生産しようとする応用研究分野。ジェネティック‐エンジニアリング。

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百科事典マイペディアの解説

遺伝子工学【いでんしこうがく】

遺伝子操作技術を用いる生物学の1部門。主として組換えDNAとDNAクローニングの手法が用いられる。組換えDNAは1970年代に入ってDNA分子の塩基配列を切断する制限酵素エンドヌクレアーゼ)が発見,単離されるとともに急速に発展した。
→関連項目アンチセンスRNA育種遺伝子導入動物イネゲノム解析研究カリフラワーモザイクウイルス合成酵素連鎖反応法細胞工学人工遺伝子人工ワクチン生物災害タンパク(蛋白)質工学バイオテクノロジーヒトゲノム解析計画レトロトランスポゾン

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栄養・生化学辞典の解説

遺伝子工学

 遺伝子操作とほとんど同じ意味に使われるが,やや広い概念をもつ.遺伝子組換えを主たる技術として,生物の機能を解析したり,生物に特定のDNAやRNAを多量に生産させたり,特定のタンパク質を生産させたりする技術の総称

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世界大百科事典 第2版の解説

いでんしこうがく【遺伝子工学 gene engineering】

狭義には遺伝子組換え(組換えDNA実験)の方法を使って,宿主生物に異種生物の遺伝子を導入し,遺伝子機能を発現させることにより,有用生体物質の生産,種の人工的改変などを目的とする技術。広義には遺伝子に関連する応用技術を意味する。分子生物学の発展により大腸菌バクテリオファージなどの遺伝子の構造と機能について膨大な知見が蓄積され,とくに1970年代,制限酵素の発見を契機として,異種生物間の遺伝子組換え技術が確立し,ヒトを含めた高等生物の遺伝子を取り扱うことが可能となった。

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大辞林 第三版の解説

いでんしこうがく【遺伝子工学】

遺伝子を有効に利用して人類に役立たせることを目的とした学問。遺伝子操作などの技術により発展した。高等生物の特定の遺伝子を多量に作り出して構造を分析したり、有用物質を生物的に生産するなど、広く応用される。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

遺伝子工学
いでんしこうがく

遺伝工学」のページをご覧ください。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

遺伝子工学
いでんしこうがく

ある遺伝子DNA(遺伝子の本体であるデオキシリボ核酸)と生細胞内で自己増殖できるDNA分子を酵素などを用いて試験管内で切断し、つなぎ換えて新しい組合せの遺伝物質をつくり、それを宿主生細胞内に移入して増殖させ、得られる遺伝子およびその産物を利用する技術をいう。組換えDNA実験、あるいは遺伝子操作ともいう。
 遺伝子DNAと結合するのに用いられる自己増殖性のDNA分子はとくにベクターvectorとよばれ、遺伝子の運び手として働く。ベクターとしてはプラスミドやある種のウイルスが用いられる。プラスミドは主として大腸菌など細菌類にみられるF因子、R因子、コリシン因子など自己増殖性の細胞質因子である。遺伝子DNAとベクターの結合したものは組換えDNAである。組換えDNAを取り込んで増殖する宿主細胞は組換え体とよばれる。この組換え体を増殖させて目的とする遺伝子を多数複製させることは遺伝子のクローン化gene cloningといわれる。[石川辰夫]

組換えDNAの作製

組換えDNAをつくるにはまず細胞から取り出した染色体DNAを制限酵素とよばれる特殊な酵素で切ったり、機械的に切ったりして、適当なベクターにつなぐ。このようにしてできた組換えDNAの一そろいは、遺伝子ライブラリーgene libraryまたは遺伝子バンクgene bankとよばれる。遺伝子ライブラリーから適当な方法で目的とする遺伝子を含む組換えDNAを取り出し、遺伝子クローン化実験に用いる。これはショットガン実験shotgun experimentである。組換えDNAが目的とする遺伝子をもち、クローン化されたかどうかは遺伝学的、あるいは生化学的な方法で調べなければならない。
 目的とする遺伝子から転写されてできる伝令RNAが細胞質から分離できる場合には、伝令RNAを鋳型にして逆転写酵素の働きで相補的な構造をもつ遺伝子DNAを合成し、組換えDNA作製に用いることができる。また、目的とする遺伝子の働きでできるタンパク質を精製して、そのアミノ酸配列順序が解析できれば、遺伝暗号表を使ってその遺伝子DNAの設計図(ヌクレオチド配列順序)をつくることができ、この設計図に従ってヌクレオチドを結合しDNA分子を化学合成することができる。ヒトのソマトスタチン、インスリン、インターフェロンの遺伝子はこの方法で合成され、組換えDNA実験に用いられている。[石川辰夫]

遺伝子のクローン化

ある遺伝子をベクターに結合してつくった組換えDNAを宿主の生細胞に取り込ませて増殖させると、その遺伝子をクローン化することができる。遺伝子のクローン化の方法は幾つかあるがその一例を以下に示す。まず、大腸菌細胞で増殖できるプラスミドを制限酵素の一種のEco R(エコーアールワン)で切る。一方、他種の生物より遺伝子(ここではAとする)を同じEco Rで切り出す。切断されたプラスミドと遺伝子をDNA連結酵素を用いてつなぎ、組換えDNAをつくる。ここで用いたプラスミドはテトラサイクリンという抗生物質に対する抵抗性の遺伝子をもち、この性質によって容易に選択されるようになっている。すなわち、組換えDNAがテトラサイクリン感受性の大腸菌細胞に取り込まれると、細胞はテトラサイクリン抵抗性になるのでテトラサイクリン培地で増殖でき、容易に選択される。このようにして得られた組換え体の大腸菌細胞は普通、複数の組換えDNAを含み、細胞を大量に培養することにより、遺伝子Aを多数得ることができる。また、組換え体の大腸菌細胞が他種からの遺伝子Aの産物を合成すれば、その産物を多量に得ることができる。
 ある種の細菌類の遺伝子を大腸菌や枯草菌細胞を用いてクローン化した例は多い。真核生物の遺伝子を大腸菌細胞によりクローン化した例も多いが、遺伝子産物が大腸菌細胞中で合成される場合とされない場合がある。大腸菌の遺伝子を酵母や動物細胞によりクローン化する実験も成功している。哺乳(ほにゅう)動物の遺伝子をSV40というウイルスをベクターとして他種の哺乳動物細胞に移入しクローン化することもできる。板倉啓壱(いたくらけいいち)らは1978年(昭和53)に化学的に合成したヒトのインスリンの遺伝子をプラスミドにつなぎ、大腸菌細胞を用いてクローン化し、大腸菌の1細胞当り10万分子のヒトのインスリンを合成することに成功した。同じような方法で、ソマトスタチン、成長ホルモン、インターフェロンなどが大腸菌細胞で合成されるようになり、病気の治療に用いるための研究が発展している。今後は医薬品の生産のみでなく、農業、工業などにおける各種産物の生産において、また品種改良や病気の治療など、農業や医学における応用において、遺伝子工学研究が進歩するものと推定される。[石川辰夫]

遺伝子工学実験の安全性の問題

遺伝子を切り出してベクターにつなぎ他種の細胞に組み込むことにより、未知の危険な生物ができたり、未知の有害な物質が生産されるといった危険性が指摘されている。このような危険性については、初めアメリカの分子遺伝学者バーグP. Bergらによって問題が提起され、1975年にはアメリカのアシロマで遺伝子工学実験の安全性と対策を討議する国際会議が開かれた。その後、アメリカをはじめ世界各国で、この種の実験によって予想されるあらゆる危険を防止するための実験指針がつくられた。日本でも1979年(昭和54)文部省(現文部科学省)により「大学等の研究機関等における組換えDNA実験指針」(遺伝子組換え実験指針)が定められた。これによると、遺伝子工学実験は、物理的封じ込めと生物学的封じ込めの2種の方法を適当に組み合わせて行い、実験の安全が確保されるようにしなければならない。物理的封じ込めとは、組換え体を施設や設備中に閉じ込めて外界へ拡散しないようにしようというもので、封じ込めの設備、実験室の設計、および実験の行い方の程度に応じ、P1、P2、P3、P4の四つのレベルに分けられている。P1レベルは整備された微生物学実験室設備であり、汚染物質はかならず消毒してから廃棄するというものである。以下P2、P3、P4の順により厳重な封じ込め設備、設計、実験方法が必要となる。とくにP4レベルでは危険性がもっとも高いとみられる実験を行うため、専用の建物で密封された実験室をつくる必要があり、このような実験室内でもっとも厳重な安全キャビネットを用いて実施することになっている。一方、生物学的封じ込めは、特殊な培養条件下でないと生存できないような宿主細胞と、これ以外の細胞には移らないようなベクターを用い、組換え体DNAが外部環境に伝えられ拡散することを防止しようとするものである。つまり実験指針は、関連分野研究者の自主規制を原則としたものであり、適切な予防措置によって安全な遺伝子工学実験が実施されているというわけである。[石川辰夫]

その後の動き

前記のように文部科学省は「組換えDNA実験指針」により遺伝子組換え実験の安全確保を図ってきた。遺伝子組換え技術が進歩し普及するなかで、生物の多様性への悪影響を防止することの重要性が国際的に認識されるようになり、2000年1月に生物多様性条約に基づき「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」が採択された(2003年9月発効)。日本においても2003年(平成15)11月に締結(2004年2月に発効)され、議定書の趣旨に沿った的確な実施を確保するために「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(遺伝子組換え規制法)」(平成15年法律97号。通称カルタヘナ法)が制定された。2004年2月同法の施行に伴い、従来の「組換えDNA実験指針」は廃止され、以降、組換えDNA実験は、遺伝子組換え規制法に従って実施されている。[編集部]

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世界大百科事典内の遺伝子工学の言及

【遺伝子操作】より

… 遺伝子の実体がDNAであることが判明してからは,DNAを媒介にした分子育種も部分的には可能になっている。これが狭義の遺伝子操作で,遺伝子工学gene engineeringと同義である。この場合,DNAの供与体と受容体が同一種でなくともよく,いわゆる分子雑種が容易に形成できる。…

【遺伝子操作】より

… 遺伝子の実体がDNAであることが判明してからは,DNAを媒介にした分子育種も部分的には可能になっている。これが狭義の遺伝子操作で,遺伝子工学gene engineeringと同義である。この場合,DNAの供与体と受容体が同一種でなくともよく,いわゆる分子雑種が容易に形成できる。…

【形質転換】より

…現在では,細菌だけでなく,高等動植物の細胞でも条件を整えることによって形質転換を人為的に起こさせることができるが,高等生物の形質転換が自然環境下でも起こっているのか,起こっているとしていかなる生物学的意義があるのかといった点は不明である。しかし,遺伝子工学という応用面から見ると,形質転換の普遍性は重要である。 本来の意味での形質転換は,(1)DNAの細胞内への取込み,(2)取り込まれたDNAの安定化,(3)DNAの遺伝情報の発現という段階を完了しなければならないが,今では(1)と(2)の条件を満たすだけでも形質転換ということがある(図3)。…

【DNA】より

…現在,20塩基程度のポリヌクレオチドは,比較的容易に合成できるようになった。 遺伝子工学では,試験管内DNA組換えという方法が用いられる。これは,プラスミドやバクテリオファージなどの自律的に増殖できるDNA(ベクターvectorという)に,例えば高等生物からとった増やしたいDNA断片を試験管内で挿入することである。…

【分子生物学】より

…狭義には,遺伝情報の発現機構の分子的基礎を明らかにしようとする研究分野。1950年代から急速な進展を遂げ,基礎生物学の一分野として重要であるのみならず,遺伝子工学に代表されるように,医療,薬品,食品,農業などの応用面にも深い影響を及ぼすようになった。実際の研究分野としては,生化学,分子遺伝学,生物物理学,細胞生物学,発生生物学などと強い関連をもち,これらの分野を厳密に区別するのはあまり意味がない。…

※「遺伝子工学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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