内科学 第10版 の解説
Friedreich失調症ほか(脊髄小脳変性症)
1863年にFriedreichにより初めて記載され,脊髄小脳失調症の概念を確立するきっかけとなった疾患である.欧米では遺伝性脊髄小脳失調症の半数以上を占めるが,わが国では遺伝子診断された例は存在しない.常染色体劣性遺伝性でfrataxin遺伝子の変異により生じる.変異としては第1イントロンのGAAリピートの異常伸長のホモ接合体が主であるが,まれに点変異とのヘテロ複合体がみられる.frataxinはミトコンドリア内の鉄代謝にかかわる蛋白であり,本症は広義のミトコンドリア病ともとらえられる.25歳以下,平均約10歳で後索性運動失調症,深部感覚障害,構音障害などで発症するが,心筋症,脊柱側弯,凹足,遠位部筋萎縮,糖尿病なども伴う.
Friedreich失調症とよく似た病像を呈するものにビタミンE単独欠乏性失調症があり,常染色体劣性遺伝性でαトコフェロール転移蛋白(α tocopherol transfer protein:αTTP)の点変異などによって生じる.臨床病理学的に後索型失調症状が中心で多くはナンセンス変異により20歳以下で発症するが,ミスセンス変異では成人発症でしばしば網膜色素変性症による夜盲を伴う.早期のビタミンEの補充で治療できる可能性があり,鑑別診断が重要である.また,眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性失調症は眼球運動失行を伴う失調症1型(AOA1)ともよばれ常染色体劣性遺伝性で,aprataxin遺伝子の変異で生じる.幼小児期に運動失調症で発症し眼球運動失行も伴うが,経過とともに成人期には低アルブミン血症や末梢神経障害が明らかとなる.脊髄後索や脊髄小脳路がおかされFriedraich失調症に類似するが,小脳が高度に障害される点は大きく異なっている.わが国で従来Friedreich失調症として報告されていた症例の多くは,本症であると思われる.脆弱X関連振戦/運動失調症候群(fragile X tremor / ataxia syndrome:FXTAS)は伴性劣性遺伝性の精神発達遅滞を呈する脆弱X症候群の原因遺伝子変異であるCGGリピートの異常伸長が55〜200程度と軽度のときに,成人男性に発症し,主に振戦と小脳失調を呈する.[水澤英洋]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報