内科学 第10版 の解説
monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS(血漿蛋白異常をきたす疾患)
定義・概念
MGUSは単クローン性形質細胞腫瘍の最も初期の段階であり,臨床的に良性の疾患ととらえられている(Malpasら,1995).骨髄有核細胞分画における形質細胞の割合は10%未満であり,血中のM蛋白量は多くなく,無症状で骨病変および臓器障害を認めない.1年間で約1%の症例が骨髄腫に進展するため,前骨髄腫状態と考えられている.IMWG診断基準(表14-10-23)では,①血清M蛋白量<3.0 g/dL,②骨髄有核細胞中の形質細胞比率<10%,③ほかのB細胞増殖性疾患が否定される,④臓器障害がない,と定義されている.
疫学・発症率・統計的事項
骨髄腫に比べて症例数は多く,一般人口に占める割合は50歳以上の1%,75歳以上の10%である.つまり加齢に伴い発症率が高まる.
病理
骨髄穿刺液の塗抹標本において,形質細胞の軽度増加を認める.
病態生理
骨髄において単クローン性の形質細胞が増加し,それらが産生するM蛋白が血中に増加する.骨髄腫に比べて骨髄中の形質細胞が少ないため,血中M蛋白量も骨髄腫に比べて少ない.
臨床症状
無症状であり,他疾患における定期受診時の採血や健康診断で偶然に見つかることがほとんどである.
検査成績
血清総蛋白および血清Igの軽度上昇がある.血清蛋白電気泳動でMスパイク(図14-10-22),血清免疫電気泳動でM-bow,免疫固定法で単クローン性バンド(図14-10-23)を認める.M蛋白量は3.0 g/dL未満であり,正常Igの減少を認めないことが多い.末梢血液所見には異常を認めないことが多く,骨髄穿刺検査では形質細胞の増加を認めるが,軽度である.腎機能障害,高カルシウム血症および骨病変は認めない.
診断
血清中にM蛋白,骨髄中に形質細胞の軽度増加(骨髄有核細胞の10%未満)を認め,臓器障害(高カルシウム血症,腎機能障害,貧血,骨病変,過粘稠度症候群,アミロイドーシス,年2回をこえる細菌感染)がなく,M蛋白をきたす基礎疾患を認めない場合に確定診断に至る.
治療・経過・予後
原則として治療適応ではないが,骨髄腫へ進展する可能性が高いので,年単位での注意深い観察が必要である.MGUSと診断したら,3~6カ月ごとの検査(臓器障害の有無,血清中・尿中M蛋白量測定,必要に応じて骨髄検査や骨X線写真)が必要である.非IgG型M蛋白,骨髄中の形質細胞の割合が高値およびM蛋白以外のIgが低値の症例は骨髄腫に移行しやすい.[松永卓也]
■文献
Hanamura I, et al: Frequent gain of chromosome band 1q21 in plasma-cell dyscrasias detected by fluorescence in situ hybridization: incidence increases from MGUS to relapsed myeloma and is related to prognosis and disease progression following tandem stem-cell transplantation. Blood, 108: 1724-1732, 2006.
Harada H, et al: Phenotypic difference of normal plasma cells from mature myeloma cells. Blood, 81: 2658-2663, 1993.
Malpas JS, Bergsagel DE, et al: Myeloma, pp1-581, Oxford University Press, Oxford, 1995.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報