改訂新版 世界大百科事典 「骨髄腫」の意味・わかりやすい解説
骨髄腫 (こつずいしゅ)
myeloma
免疫グロブリンを産生・分泌する形質細胞が腫瘍性に増殖する悪性腫瘍。主として骨髄で増殖し,各所の骨が侵されることが多いので,多発性骨髄腫multiple myelomaとも呼ばれ,単クローン性免疫グロブリン(Mタンパク)の出現,骨病変などを特徴とする。腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)は骨髄で主として結節状に増殖し,次第に骨皮質を融解・破壊して骨折(病的骨折)を起こす。
40歳以後の中高年者に多く,60~70歳代が最も多い。男女差はほとんどない。本症は1960年ころまでは非常にまれな疾患と考えられていたが,主としてタンパク質検査法の進歩・普及によって患者の発見が容易になり,また平均寿命の延長に伴う高齢者の増加と相まって患者数は毎年増加し,日本では人口10万人あたりの死亡数は2.3人(1995)で,それほど珍しい疾患ではなくなっている。発病は緩慢である。症状は腰・胸・背部の体動時の疼痛が最も多く,何でもない動作で骨折を起こしやすい。多くの場合軽度ないし中等度の貧血があり,これが主症状であることもある。また高度の血沈促進がしばしば見られる。骨髄中には骨髄腫細胞が多数認められ,これが見られれば本症の診断は確実であるが,本症の特徴として骨髄腫細胞は結節性に増殖するため,骨髄の穿刺部位によっては骨髄腫細胞があまり見られないこともある。この場合には他の部位で骨髄穿刺を反復する必要がある。血清中には特徴的な単クローン性免疫グロブリン,尿中にはベンス・ジョーンズ・タンパクBence Jones proteinが多量に見られ,診断の手がかりとなる。血清中の単クローン性免疫グロブリンには抗体活性がなく,また本症では正常の免疫グロブリンが減少するのが特徴であるため,液性免疫不全状態となって,肺炎・尿路感染症などの感染症を合併することが多い。そのほか,腎機能不全,高カルシウム血症もしばしば認められ,アミロイドーシスを合併することもある。侵される骨は頭蓋骨,脊椎骨,肋骨,骨盤骨その他四肢の中枢部の骨に多く,骨融解,骨打ち抜き像punched out shadow,骨折などが見られる。ときに,脊椎骨を破壊して出た腫瘤が脊髄を圧迫して下半身の対麻痺を起こすこともある。本症は徐々に進行し,平均2~3年で死亡するが,10年以上の生存例も少数ながら見られる。死因は腫瘍死のほか肺炎,敗血症等の感染症,腎不全-尿毒症などである。治療はメルファランmelphalanを中心とした併用化学療法が行われるが,最近では骨髄移植,末梢血幹細胞移植なども試みられ好成績をあげている。
執筆者:今村 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報