骨髄腫(読み)こつずいしゅ(英語表記)Myeloma

六訂版 家庭医学大全科 「骨髄腫」の解説

骨髄腫
こつずいしゅ
Myeloma
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か・原因は何か

 血液を作る細胞は骨髄のなかにあります。いくつかの種類の細胞があり、そのうち細菌などが体内に入ってきた時にはたらく抗体を作る細胞が形質細胞で、これががん化したものが骨髄腫です。

 血液細胞の腫瘍なので、全身の骨に多発し、通常は多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)と呼ばれます。40歳以降の年齢層に発生し、男性に多い傾向があります。中年以降の男性の腰痛ではまず骨髄腫を疑うこと、という医師もいるくらいです。まれにひとつの骨に単発に発生することもあります。

 血液を活発に作っている骨に発生しやすいので、脊椎(せきつい)骨盤の骨、肋骨(ろっこつ)や胸骨によくみられますが、手足の骨にも起こります。

 骨肉腫軟骨肉腫などの骨に発生する悪性腫瘍と比べて特徴的なことは、腫瘍細胞が抗体を作る性質をもっていることで、血液のなかに免疫グロブリンという抗体が異常に増えます。時々抗体の値が高くならないこともあり、そのような時の診断には組織検査が必要です。

 腫瘍細胞が血液細胞に由来するので、放射線療法がよく効き、また化学療法(抗がん薬)の開発も進んでいます。骨の病気ですが、全身の病気として位置づけられて、治療の方針は血液内科で決められています。

症状の現れ方

 主な症状は、徐々に強くなる痛みですが、場所が移動することがあります。加齢的変化による腰痛や頸部(けいぶ)痛などと区別のつかないことがあります。脊椎などは、圧迫骨折病的骨折)を起こすこともまれではありません。

 一方、健診などの血液検査で抗体の異常高値を指摘され、X線検査をしてみて初めて発見されることもあります。

検査と診断

 X線検査では骨が溶ける溶骨性の変化が主体で、打ち抜き像と呼ばれることがあります。この像が単発、または多発してみられます。全身に広がっている場合には、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)と区別のつかないことがあります。

 血液検査で約半数にある種の免疫グロブリンの上昇を認め、尿検査で骨髄腫に特異的なベンス・ジョーンズ蛋白と呼ばれる蛋白が検出されます。全身への広がりの検索には、骨シンチグラフィーが有効です。

治療の方法

 局所に対する治療は、放射線療法が有効です。単発であれば外科的切除を行うこともあります。全身疾患として位置づけられるので、抗がん薬による化学療法が行われています。

 単発性で十分な外科切除の行われたものは長期生存が期待できますが、多発性のものは放射線療法や化学療法に反応しますが、予後は悪いことが知られています。

病気に気づいたらどうする

 ただちに骨軟部腫瘍の専門の医師に相談するか、血液内科のある専門病院を受診してください。

岡田 恭司

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「骨髄腫」の意味・わかりやすい解説

骨髄腫 (こつずいしゅ)
myeloma

免疫グロブリンを産生・分泌する形質細胞が腫瘍性に増殖する悪性腫瘍。主として骨髄で増殖し,各所の骨が侵されることが多いので,多発性骨髄腫multiple myelomaとも呼ばれ,単クローン性免疫グロブリン(Mタンパク)の出現,骨病変などを特徴とする。腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)は骨髄で主として結節状に増殖し,次第に骨皮質を融解・破壊して骨折(病的骨折)を起こす。

 40歳以後の中高年者に多く,60~70歳代が最も多い。男女差はほとんどない。本症は1960年ころまでは非常にまれな疾患と考えられていたが,主としてタンパク質検査法の進歩・普及によって患者の発見が容易になり,また平均寿命の延長に伴う高齢者の増加と相まって患者数は毎年増加し,日本では人口10万人あたりの死亡数は2.3人(1995)で,それほど珍しい疾患ではなくなっている。発病は緩慢である。症状は腰・胸・背部の体動時の疼痛が最も多く,何でもない動作で骨折を起こしやすい。多くの場合軽度ないし中等度の貧血があり,これが主症状であることもある。また高度の血沈促進がしばしば見られる。骨髄中には骨髄腫細胞が多数認められ,これが見られれば本症の診断は確実であるが,本症の特徴として骨髄腫細胞は結節性に増殖するため,骨髄の穿刺部位によっては骨髄腫細胞があまり見られないこともある。この場合には他の部位で骨髄穿刺を反復する必要がある。血清中には特徴的な単クローン性免疫グロブリン,尿中にはベンス・ジョーンズ・タンパクBence Jones proteinが多量に見られ,診断の手がかりとなる。血清中の単クローン性免疫グロブリンには抗体活性がなく,また本症では正常の免疫グロブリンが減少するのが特徴であるため,液性免疫不全状態となって,肺炎・尿路感染症などの感染症を合併することが多い。そのほか,腎機能不全,高カルシウム血症もしばしば認められ,アミロイドーシスを合併することもある。侵される骨は頭蓋骨,脊椎骨,肋骨,骨盤骨その他四肢の中枢部の骨に多く,骨融解,骨打ち抜き像punched out shadow,骨折などが見られる。ときに,脊椎骨を破壊して出た腫瘤が脊髄を圧迫して下半身の対麻痺を起こすこともある。本症は徐々に進行し,平均2~3年で死亡するが,10年以上の生存例も少数ながら見られる。死因は腫瘍死のほか肺炎,敗血症等の感染症,腎不全-尿毒症などである。治療はメルファランmelphalanを中心とした併用化学療法が行われるが,最近では骨髄移植,末梢血幹細胞移植なども試みられ好成績をあげている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「骨髄腫」の意味・わかりやすい解説

骨髄腫
こつずいしゅ
myeloma

骨には骨膜、骨細胞、骨髄からいろいろの腫瘍(しゅよう)が発生するが、大別すると、骨からの骨腫瘍と、骨髄からできる骨髄腫に分けられる。骨髄にできる腫瘍には、細網肉腫、リンパ肉腫、癌(がん)の転移などがあるが、現在では形質細胞の悪性増殖によっておこるものを骨髄腫あるいは多発性骨髄腫とよんで区別している。

[伊藤健次郎]

多発性骨髄腫

高齢者に多くみられる疾患である。骨髄内で形質細胞がびまん性、結節性の両方の発育様式をとって骨質を破壊し、また造血の場を占領して血球を減少させる。その一方では形質細胞が免疫グロブリンを産生するため、多量の病的免疫グロブリンがたまって腎臓(じんぞう)を障害する。さらに正常な免疫グロブリンが減少するため、感染がおこりやすくなる。なお、尿中には診断にも役だつベンス・ジョーンスBence Jonesタンパクが現れる。

[伊藤健次郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「骨髄腫」の意味・わかりやすい解説

骨髄腫
こつずいしゅ
myeloma

ミエローマともいう。骨髄性細胞から発生する腫瘍の総称であるが,実際上は形質細胞に由来する悪性腫瘍をいい,一般に多発性骨髄腫あるいは形質細胞腫と呼ばれている。 50~70歳の男性に好発する。骨髄内に多発する傾向がある。骨髄腫の細胞は6種類の免疫グロブリン (骨髄腫グロブリンという) をつくりだし,それぞれのグロブリンが高グロブリン血症を起し,その構成成分の一部が尿に出て,ベンスジョーンズ蛋白質となる。

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世界大百科事典(旧版)内の骨髄腫の言及

【形質細胞】より

…とくに集中的に局所に抗原が到達すると,その臓器の間質で活発に増殖し,その抗原に対する抗体を分泌する。 腫瘍化した形質細胞腫細胞の大半は,免疫グロブリンまたはその構成分子を産生しているが,ヒトでは骨髄内で増殖することが多く,骨髄腫と呼ばれている。活発な免疫グロブリン産生能と増殖能を備えた形質細胞腫細胞の培養株は,特定の抗体産生細胞と融合させ,単クローン抗体をつくるのに用いられている。…

※「骨髄腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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