テオトコス(英語表記)Theotokos[ギリシア]

改訂新版 世界大百科事典 「テオトコス」の意味・わかりやすい解説

テオトコス
Theotokos[ギリシア]

〈神を生んだ者〉〈神の母〉を意味する聖母マリアの尊称。日本の正教会では〈生神女(しようしんじよ)〉と訳す。3世紀のギリシア教父オリゲネスに用例が見え,東方では早くから定着していた。5世紀前半のコンスタンティノープル主教ネストリウスが,この尊称はキリストの完全な人性の教義を危うくするとして反対したため,大問題となった。ネストリウスは代りに〈クリストトコスChristotokos〉(〈キリストの母〉の意)を提案したが,一般には受けいれられなかった。西方教会ではこの尊称はふつうは用いられない。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「テオトコス」の意味・わかりやすい解説

テオトコス
Theotokos; Mother of God

「神の母」の意。聖母マリアの尊称。ギリシア正教会では生神母という。キリストにおいて神性とキリストの人間性とが,唯一の神の第2位,聖子ペルソナによって結合していることを認める教義から演繹され,人間キリストの母マリアは,同時に神なるキリストの母でもあるとするもの。ネストリウスはキリストにおいて神人両性を分離する立場からこれを拒否,クリストトコス Christotokos (キリストの母) と改めることを主張したが,キュリロスらによる猛烈な反対を受け,エフェソス公会議 (431) もテオトコスを正式名称と認めた。のちにこの名称は西方教会にも普及したが,特に東方のキリスト教世界では大きな役割を果し,聖像画家は好んで画材とした。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のテオトコスの言及

【エフェソス公会議】より

…第3回公会議にあたり,皇帝テオドシウス2世が招集した。コンスタンティノープル主教ネストリウスは,キリストにおける神性と人性の区別を明確にすべきだと主張し,聖母マリアへの〈テオトコス〉(〈神の母〉の意)の尊称に反対した。それに対しアレクサンドリア主教キュリロスらが強く反発し,教会政治上の思惑もからんで論争問題となっていた。…

【キュリロス[アレクサンドリアの]】より

…412年,叔父テオフィロスの後任としてアレクサンドリア主教に就任,さまざまな異端および異教との強引な闘争を推進した。430年代の終り,コンスタンティノープル主教ネストリウスが,キリストにおける神性と人性の区別を明確にするため,当時広く行われていた聖母の尊称〈テオトコス(神の母)〉を排斥したとき,キュリロスはそれにはげしく反発し,エフェソス公会議(431)においてネストリウスを異端として罷免させた。これにはコンスタンティノープル教会に対するアレクサンドリア教会の反目,神学上のアンティオキア学派(ネストリウスが属す)に対するアレクサンドリア学派の敵意といった政治的要因が優先した。…

【グレゴリオス[ニュッサの]】より

…三位一体論に関して,アタナシオスの神学においても混同のあった〈ウシア(本質)〉と〈ヒュポスタシス(位格)〉をはっきり区別し,今日に伝わる一本質三位格の神論を確立した。キリスト論について,受肉はマリアの胎内で行われるがゆえに,マリアは真の〈テオトコス(神の母)〉であるとした。終末論についてはオリゲネスの影響が著しい。…

【聖母子】より

…崇拝や祈願の対象として,説話的場面から独立した表現がとられる。5世紀に神の母テオトコスとしてのマリアが教義的に公認されてのち,急速に普及した。最も古い例ではすでにプリシラPriscillaのカタコンベ(ローマ)にみられるが,初期キリスト教美術では5世紀以来,マリアの神性を強調し,もっぱら不動で厳粛な《玉座の聖母子》として表現された。…

【ネストリウス】より

…皇帝テオドシウス2世によってコンスタンティノープル主教に任じられ,首都の教会の代表として聖職者の規律を引きしめ,異端の撲滅にのりだした。ネストリウスの意を受けた司祭アナスタシオスAnastasiosが,当時ひろく行われていた聖母マリアの尊称〈テオトコス(神の母)〉に反対する説教を行い,キリスト教世界全体に大きな衝撃を与え,論争が始まった。ネストリウスは,キリストにおける神性と人性の区分を明確にするために,〈テオトコス〉の尊称がキリストの完全な人性を損うとしてこれを退けたわけだが,一般には聖母に対する冒瀆と受けとられた。…

【マリア】より

…旧約聖書にはモーセとアロンの姉妹の名として出てくるし(《出エジプト記》15:20),新約聖書でもマリアの名をもつ人物はマグダラのマリア以下何人もいるが,一般にマリアといえばイエス・キリストの母,いわゆる聖母を指す。東方では4世紀以降,とくに431年のエフェソス公会議以降テオトコス(〈神を生んだ者〉の意)と呼ばれることが多く,他にパナギアPanagia(〈至聖なる女〉の意),メテル・テウMētēr Theou(〈神の母〉の意。と略す)などと呼び,マリアということはむしろ少ない。…

※「テオトコス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android