テングリ(英語表記)tngri

改訂新版 世界大百科事典 「テングリ」の意味・わかりやすい解説

テングリ
tngri

トルコ族,モンゴル族における物質的実在としての天,およびシャマニズム神観上の精神的実在としての天神,または天神の下にいる神々をいう。モンゴル語ではtegri,tenggeriとも表記され,tängriは古代トルコ語のローマ字表記である。蒼天そのものに対する崇敬から天の神格化が行われた。天は人に定命と霊を与える。そして天は世界秩序の維持者であり,人を加護するが,罰も加える。罰は彗星凶作洪水などの自然現象によって告知され,人はそれによって反省する。天はもと特別の人格・霊体をもたず,せいぜい霊だとされていた。こうした霊なる天には蒼天以外の特定の名称がなかったが,のちモンゴルではホルムスダアフラ・マズダのこと),アルタイ・タタール族ではユルゲンなどの名称が天の帝王の名として採用された。テングリという語はまた神の普通名詞としても用いられる。トルコ族やモンゴル族は,その族祖が天から遣わされ(高車,突厥(とつくつ)),天の定命によって生まれた狼であり(モンゴル),また光に感じて生まれた天の子である(モンゴル)と信じていた。そして彼らの王は,匈奴が王たる単于(ぜんう)を撐犂孤塗(とうりこと)単于(撐犂=tngri,孤塗=子,単于=広大)つまり大天子と称していたことに示されるように,天の子であり,シャーマンであると信じられていた。彼らはシャマニズム崇拝者として,天に対する強い尊崇の念を抱いていたために,彼らや彼らの王を天とかかわらせることによって神聖化し権威づけたのである。

執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のテングリの言及

【天】より

…たとえば,匈奴(きようど)が天を祭ったことは《史記》や《漢書》にみえているし,北魏をおこした拓跋(たくばつ)部にも同様の記録がある(《魏書》)。モンゴル族の至上神テングリtengriは同時に天空を意味し,今日においてもアルタイ系民族,アジア極北民族,フィン・ウゴル語族系諸族の多くは,天空と至上神とを同じ言葉であらわしている。ユダヤ教,キリスト教,イスラム教などにおける上天の唯一神,中国における天の信仰ないし思想も,もとは同根だとし,そこに農耕的=母権的な地母神信仰に対する,遊牧的=父権的文化の特性を見いだそうとする試みもなされている(石田英一郎)。…

※「テングリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」